12月30日 単一細胞の培養から解析まで可能にするカプセル(12月18日 Science オンライン掲載論文)
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12月30日 単一細胞の培養から解析まで可能にするカプセル(12月18日 Science オンライン掲載論文)

2025年12月30日
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単一細胞レベルのテクノロジーの開発は2010年以降に始まったと思う。まだ現役の頃は、単一細胞由来のライブラリーを作るのはほとんど職人芸と行っても良かった。しかし、バーコード技術と、細胞を一つの液滴の中にマイクロフルイディックス技術が発展し、単一細胞のオミックスが維持か担っているのを見るとうらやましい。しかし、この技術の最大の問題は、一旦細胞を液滴に閉じ込めると、全ての処理をその液滴内で一度に済ます必要があった。

これに対し、今日紹介するリトアニア・バイオテクノロジー研究所からの論文は、デキストランとメタクリル・ゲラチンを混ぜることで起こる相分離で出来たカプセルを光重合させることで、一個の細胞が詰まったカプセルが出来、そのままミクロ試験管として何段階もの処理を細胞に加えることができることを示した研究で、12月18日 Science にオンライン掲載された。タイトルは「High-throughput single cell omics using semipermeable capsules(部分的に透過性を持つカプセルを用いたハイスループット単一細胞オミックス)」だ。

使っているポリマーは異なるがほぼ同じ内容の論文がハーバード大学からサイドバイサイドで発表されていたが、リトアニアからの論文を紹介する。

細胞を浮遊させた液に高分子デキストランを加え、マイクルフルイディックスを用いてメタクリル・ゲラチン液と会合させると、デキストランとアクリルジェラチンが培養液から分離する。この分離したデキストラン・アクリルゲラチンに光を当てると、タンパク質や小分子は通るが、300bp以上の核酸は通らない穴の空いたカプセルが出来、その中に細胞が閉じ込められる。

このカプセルは酵素処理をしない限り壊れることのない、30nmから200nmの大きさを保つ。このおかげで、カプセルの中で細胞を培養して増やすことが出来るし、またsingle cellの入ったカプセル内で細胞を分解し、カプセルを透析することで、タンパク質などの夾雑物質が除かれた300bp以上のRNAやDNAを精製することができる。

こうして精製した核酸はカプセル内でバーコードを加えることができる。ただバーコードは一個ずつのカプセルをマイクロプレートに撒いて行う必要がある。 その後カプセルを全部回収してよく洗った後、もう一度プレートにまき直して異なるバーコードを加えることも出来、この作業を繰り返せば、1万種類以上の個々の細胞を標識できる。

この方法により、一般の single cell RNA sequencing などとで行える細胞のトランスクリプトミックスと同じ解析が行え、また夾雑物のない条件で解析が出来るため、例えば骨髄性白血病で分化したように見える白血病細胞でも増殖プログラムが発現していることなど、高い精度のデータを得ることができる。歩留まりも良い。

極めつけは、バーコードを付加した後、蛍光PCRを用いて特定のゲノムやRNAを増幅・蛍光標識した後、セルソーターで目的の遺伝子を含むカプセルだけを選び、その後カプセル内のRNAからライブラリーを作成することで、特定の遺伝子を確実に含むライブラリーを作成することができる。もちろん今の方法でも、たくさんの単一細胞を調べて遺伝子発現から選び出すことも出来るが、より精度の高い解析を行うためには優れていると思う。また、核酸だけにとどまらず、オルガネラなど他の指標も使うことができる。

結果は以上で、全く新しい有望な単一細胞解析テクノロジーが開発された。おそらくすぐにサービスが始まり、普及は早いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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