12月31日 トリプルネガティブ乳ガンの新しい治療法(12月24日Science Translational Medicine掲載論文他)
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12月31日 トリプルネガティブ乳ガンの新しい治療法(12月24日Science Translational Medicine掲載論文他)

2025年12月31日
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今年最後はトリプルネガティブ乳ガンに対する新しい治療法の可能性を調べた2編の論文を紹介する。

最初のテキサス大学MDアンダーソンガンセンターから発表された論文は、トリプルネガティブ乳ガンや、CDK4/6阻害剤抵抗性を獲得した乳ガンの2-5割の患者さんで見られるRb1欠損は、後期細胞周期の阻害剤を組み合わせて治療できる可能性を示した研究で、12月24日Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Rb1 deficiency induces synthetic lethality with ATR and PKMYT1 coinhibition in breast cancer cell lines and patient-derived xenografts(Rb1欠損はATRとPKMYT1両方の阻害によって殺せることが、細胞株と患者由来ガンの移植モデルで明らかになった)」だ。

CDK4/6阻害剤の成功のおかげで、細胞周期をガンの標的とした薬剤の開発が進んでいるが、現在治験が進んでいるS-G2チェックポイント分子ATRとG2-Mチェックポイント分子PKMYT1に対する阻害剤を有効に使う条件としてRb1欠損患者さんを選ぶことを提唱したのがこの研究だ。手短に紹介するため、実験の詳細は全て割愛するが、研究のアイデアは、Rb1はE2Fに結合して細胞周期を抑えるだけでなく、細胞周期とは独立にDNA修復に関わっているため、Rb1が欠損すると細胞周期が進むと同時に、DNA修復機能が低下する。DNA複製中の修復がうまくいかないとチェックポイント機能が働いて、細胞周期を止めて修復を待つが、このチェックポイントを阻害することで、DNA複製が止まってしまうストレス、分裂期への早期への移行等が起こり、Rb1を欠損したガン細胞だけ殺すことが期待される。

結果は期待通りで、両方の阻害剤を同時に使ったときだけに、強い細胞死を抑制できる。この阻害剤による細胞死が期待通りDNA修復異常、チェックポイント機構の喪失、そしてストレスに対するJNK/p38シグナルにより細胞死が起こることを示している。

実験のほとんどは細胞株で行われているが、乳ガン患者さん由来のガン細胞を免疫不全マウスに移植する実験も行い、Rb1欠損の乳ガンだけでこの治療法が有効であることを示している。このことから、トリプルネガティブ乳ガンやCDK4/6阻害剤に耐性を獲得した乳ガンの治療として、S-G2, G2-M期阻害の併用は期待できる。ここで使われた薬剤は単独では治験に入っているので、比較的早くRb1をバイオマーカーとした治験が進むと思う。現役時代には副作用が起こるため不可能と考えていた、細胞周期そのものを狙った薬剤の開発が進んでいるのには驚く。

次のスペインバルセロナのVall d’Hebronガン研究所からの論文はトリプルネガティブ乳ガンに現在使われているPARP阻害剤に加えて、新しいMycを標的にするOmomycを併用することでコントロールできる可能性を示した研究で、12月23日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「MYC inhibition by Omomyc causes DNA damage and overcomes PARPi resistance in breast cancer(OmomycによるMyc阻害はDNA障害を誘導して乳ガンのPARP阻害剤の耐性を克服できる)」だ。

ここで使われたMyc阻害剤Omomycは、今はやりのペプチドデザインのパイオニアとも言えるイタリアの研究者により開発されたペプチド薬で、Mycの2量体形成を阻害する薬剤で、長い時間を経て、Mycを標的とする唯一の薬剤として治験が行われている。

この研究ではMycを阻害することで、重要なDNA修復機構に関わる遺伝子が軒並み低下し、実際細胞で切断され修復できないDNAが増加することを示している。元々トリプルネガティブ乳ガンはDNA修復機構が低下しており(BRCA変異など)、DNAの一本鎖切断タイプの修復酵素PARPを阻害する薬剤が既に利用されている。

しかし、RARP阻害剤は使用中早期に耐性が発生するため、これに対する対応が求められていた。この研究ではPARP阻害剤耐性ガンではMycの発現が上昇していること、またMycを抑えるとsingle strand, double strandの切断に関わる修復システムの機能を抑えられることから、トリプルネガティブ乳ガンにPARP阻害剤とOmomycを併用することで高い効果が得られると着想している。

これを確かめるため、治療前のトリプルネガティブ乳ガンバイオプシーで得られた組織を免疫不全マウスに移植、腫瘍が大きくなった時点で腫瘍を植え替えて、それぞれの阻害剤単独、あるいは併用で効果を調べている。 結果は期待通りで、Omomyc単独でも効果は認められるが、PARP阻害剤と併用したときに最も強い抑制効果が見られることが示されている。

結果は以上で、この場合もOmomycの治験が始まっていることから、すぐ臨床応用の可能性が試されると思う。

以上、トリプルネガティブ乳ガンにも新しい光がさしていることを示す研究だが、いずれにせよ遺伝子診断は必須であることがよくわかる。

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