5月19日 新しいシナプス操作法の開発(5月13日Natureオンライン掲載論文)
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5月19日 新しいシナプス操作法の開発(5月13日Natureオンライン掲載論文)

2026年5月19日
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AIのニューラルネットは、ネットワークのハブの伝達度が変化するよう重みづけることで成立している。神経系ではこの重み付けは化学シナプス接合で行われており、分子生物学的、生化学的、生理学的、形態学的な変化を伴う極めて複雑な過程を必要としている。AIニューラルネットのことを知れば知るほど、神経系の化学シナプスでの重み付け機構がよく出来ていることを実感する。これほど複雑な化学シナプスは6億年前に進化してきたと考えられているが、細胞の興奮を他の細胞に伝えるためのより単純な機構はずっと以前から進化している。最も重要なのがギャップジャンクション(GJ)を介する興奮伝達機構で、2つの細胞が結合して様々なサイズの分子の移行を可能にするシステムだ。例えば心臓の筋肉はGJを形成することで興奮が広がる。神経系でもいくつかの計でGJを興奮伝達に使っていることが知られており、電気シナプスと呼ばれている。

今日紹介する米国Duke大学からの論文は、GJを形成するコネキシン分子を操作して、2種類のコネキシンが選択的に結合してGJを形成し、それを通って一方向に電流が流れる電気シナプスを開発し、これにより動物の神経接合を操作できることを明らかにしたおもしろい研究で、5月13日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Long-term editing of brain circuits using an engineered electrical synapse(電気シナプス操作により脳回路を長期にわたって操作する)」だ。

コネキシン(Cx)が結合してGJが起こることはわかっているが、通常同じコネキシン同士でGJを作るため、特異的な電気結合を可能にするCx分子ペアを設計するのは簡単ではない。この研究では、電気シナプスを形成することがわかっているCx36のホモログCx34.7とCx35が、アメリカに棲息するWhite Perchに発現していることを突き止め、この組み合わせが存在するときだけ電気シナプスが形成されるよう様々な遺伝子編集を行い、最終的にそれぞれ単独では決して電気シナプスを形成せず、両方が合わさったときだけ電気シナプスが形成できるCx34MとCx35Mのデザインに成功している。実際にはこの過程がこの研究のハイライトだが、詳細は割愛した。

この電気シナプスを通常の神経回路に加えることで、神経細胞レベル、行動レベルの変化を誘導出来るか調べるために、まず線虫の温度志向性を使って実験している。線虫は温度志向性はないが、一定の温度と餌を会わせて条件付けると、温度志向性が生まれる。この現象に関わる温度センサーAFDとその刺激を受ける介在神経AYそれぞれにCx34M,Cx35Mを発現させ、教育後の温度志向性を調べると、センサー細胞の興奮が直接介在神経に伝わって、高い温度への移動を始めることを確認している。一方で、同じCx同士では全く電気シナプスは出来ない。即ち期待通り、特定のサーキットに電気シナプスを加えることが可能になった。

次はマウス海馬全体にCx34Mが発現し、介在神経のみCx35Mが発現するよう操作している。両方が別々の細胞に存在しないとGJは形成されないので、この方法で錐体神経から介在神経へと電気シナプスができる。すると海馬の高振幅θ波の同調が強く誘導されること、これが錐体神経刺激が直接介在神経の興奮の同調の結果である事を確認している。その上で、このマウスの行動について調べると、社会性が上昇し、新しいものを求める行動が促進されることを示している。

最後にストレスに関わる辺縁系と視床の比較的長距離回路をこの方法で操作できるか調べている。辺縁系にCx34M, 視床にCx35Mを発現させ、最終的に神経同士のシナプスにGjが形成されるか調べ、軸索移動に時間がかかるものの10日程度でそれぞれの分子がシナプスでGJを形成することを確認している。またこの結果、単一細胞同士の神経興奮が少しの間隔を置いて伝達できることを確認している。そして、このマウスでストレスへの適応を調べると、電気シナプスで結合を増強した場合のみ、適応力が上昇することを示している。

結果は以上で、2種類の分子がないとGJが形成できないCxの組み合わせを開発し、新しい定常的な神経調節システムを開発した優れた研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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