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8月6日 抗PD-1抗体の作用が浮き上がらせるガン免疫のダイナミズム(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年8月6日
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抗原によりキラーT 細胞が活性化された後、抗原から離れた細胞はメモリー細胞へと分化し、一方抗原に持続的にさらされるとPD-1を発現するexhausted typeへ分化する。この反応が免疫のブレーキになるが、このブレーキをPD-1に対する抗体で外して、もう一度ガンと戦わせるのがチェックポイント治療で、ガン抗原が常に存在するガン局所では極めて合理的方法だ。

この考え方だと、ガン局所のキラーT 細胞はPD-1抗体によって活性化されても、クローン自体は変化することはないはずだ。ところが、今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、少なくとも皮膚ケラチノサイトのガンSCCでは、PD-1抗体処理により、局所に新しいキラーT細胞が現れガン免疫に関わることを示し、PD-1の複雑な機能を示唆する研究だ。タイトルは「Clonal replacement of tumor-specific T cells following PD-1 blockade (PD-1阻害の後に見られるガン特異的T細胞の入れ換え)」だ。

この研究ではサンプルの採取しやすいSCCを標的にPD-1抗体治療を通常どおり行い、治療前と、最終投与以後54日までにサンプルを取り、組織中の浸潤T細胞(TIL)について、single cell transcriptomeを行い、ガン局所での細胞の変化を調べている。

期待通り、PD-1投与を行なった組織ではほとんどのタイプのT細胞の数が上昇しているが、期待通り抗原に反応している細胞系統とブレーキがかかりはじめた疲弊型に2分する。

問題はガン局所で増殖しているT細胞が期待通りガン局所で増殖したのかどうかだ。これを確かめるため、それぞれのT細胞の発現する抗原受容体を解析すると、抗体治療の後で増殖しているPD-1陽性のexhausted typeでは、抗原特異的と思われるクローンが選択的に増殖していることがわかる。

ところが驚くことにPD-1抗体治療前のTILと比べたとき、治療前にはなかった全く新しいクローンが増殖していることがわかった。実際、新しくガン組織に現れたexhausted typeのクローンは末梢血にも認めることができるので、おそらく新たに浸潤してきたものだろうと考えている。

以上の結果は、ガン免疫は決して組織内で終始する過程ではなく、またPD-1も疲れ始めたT細胞に鞭打ってガンを攻撃させるのではなく、常に新しいT細胞をリクルートし活性化することがガン免疫成立、そしてPD-1治療効果の鍵になることを示している。とすると、常にガン局所に新しい戦力を導入し、それをより強く活性化する方法の開発が必要だが、現在この分野は賑やかなので、必ずや期待できる治療法が開発されると思う。

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