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8月4日 p53バイオロジーの複雑さ(8月1日号Nature掲載論文)

2019年8月4日
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おそらく発癌に関わる遺伝子の中でもp53ほど奥が深い分子はないだろう。DNA 損傷を始め様々な細胞へのストレスで活性化され、多様な分子の発現を誘導し、細胞周期、細胞死、DNA修復などに関わるだけでなく、例えば血管新生や代謝調節にも関わり、これら全てはガンの悪性化と関わる。

今日紹介するオランダ・ガン研究所からの論文は、p53とWntの予想外のリンクを発見した研究で、またまたp53の奥の深さを垣間見さえてくれた。タイトルは「Loss of p53 triggers WNT-dependent systemic inflammation to drive breast cancer metastasis (p53が欠損するとWnt依存性の全身性の炎症が誘導され乳がんの転移を誘導する)」だ。

がんの増殖浸潤転移には組織炎症が促進因子として強く働いていることが知られている。7月9日に紹介した膵臓癌転移を抑えるADH-503は、白血球のガン組織への浸潤を抑えることでガン免疫を高めることで効果を発揮していることを紹介した(http://aasj.jp/news/watch/10513:Youtube: https://www.youtube.com/watch?v=vxZFpDx4rIg)。

今日紹介する研究も、まず炎症を誘導しやすいガンを探すために、マウスの様々な遺伝子改変で誘導される16種類の乳がんが末期になった時期に組織の白血球浸潤を調べ、驚くことにp53遺伝子を両方の染色体で欠損させた9種類のガンでのみ白血球の浸潤が見られることを発見する。すなわち、ドライバー遺伝子などには関わらずp53欠損と白血球浸潤が強く相関することを見つけた。さらに、p53陰性腫瘍の周りの白血球は、幹細胞マーカーであるc-Kitまで発言していることがわかった。

さらにこの関係を確かめるために、同じガン細胞からp53だけをクリスパー/Cas9で欠損させた細胞株を作り、親株と欠損株をマウスに注射する実験を行い、白血球の浸潤がp53と関連していること、また浸潤してきたマクロファージによりIL1βのレベルが高まっており、ガンの進展を促す組織構造が生まれていることを確認する。

では、p53が欠損により直接誘導されるどの分子によりこの様な未熟白血球の浸潤がおこっているのか調べる目的で、ガンの遺伝子発現を比べ、Wnt1,6,7Aがp53欠損株で上昇していることを発見する。すなわち、p53はWntの発現抑制に関わっていることになる。そして、誘導されたWntは白血球幹細胞に働き、全身性の炎症を誘導してその結果乳がんへの浸潤が高まると結論している。

最後にこの考えを確かめるため、Wntを抑制する化合物LGK974をマウスに投与する実験を行い、p53陰性の腫瘍特異的に、ガンの転移を抑制できることを示している。

P53=細胞周期とDNA 修復と考えていた頃から考えると、何と複雑になってきたのかと改めて感心した論文だが、では正常でp53がWntの発現を抑制することの意味は何だろうと疑問は膨らんでいく。おそるべしP53 。

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