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8月28日 膵臓癌の多発家系のリスク遺伝子(Nature Genetics オンライン掲載論文)

2019年8月28日
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近親者に多くのガン患者さんが発生しているという家系があることは確かで、膵臓癌でもこれまでBRCA2やp16の変異を持つ家系が発見されている。ただ、この2種類だけでは到底全ての多発家系を説明できず、このためには家系のメンバーを集め、丹念な遺伝子検査を積み重ねることが重要になる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、このような家系調査から膵臓癌のドライバーになる新しい遺伝子を発見し、その機能を解明したという研究でNature Geneticsオンライン版に掲載されている。タイトルは「Mutations in RABL3 alter KRAS prenylation and are associated with hereditary pancreatic cancer(RABL3遺伝子の変異はKRASのプレニル化を促進することで遺伝的膵臓癌の原因になる)」だ。

この研究で注目された家系では、4世代46人のなかに、5人の膵臓癌、4人のメラノーマ、2人の乳がんの他、脳、肝臓、胃、大腸などのがんが1人づつ発生している凄まじい家系で、この家系の全ゲノム配列の情報から、がんとの相関性が高いとしてRABL遺伝子が36番目のアミノ酸で途切れてしまう突然変異を唯一のリスク遺伝子として特定するのに成功している。

あとはこの変異RABL3(mRABL3)がどうしてガンのリスクになるのかをオーソドックスな方法で調べている。まず、ゼブラフィッシュにこのmRABL3変異を片方の染色体に導入する実験を行い、p53欠損と組み合わせると末梢神経鞘の腫瘍が起こることを確認し、確かにmRABL3がリスクガンの原因遺伝子になることを明らかにする。

次に、発がん前のゼブラフィッシュの遺伝子発現とパスウェイ解析をもとにRABL3が関わる分子経路を探索すると、膵臓ガンドライバー遺伝子の本家本元KEASがリストされてきた。そこで実際の分子経路を生化学的に調べると、KRASのプレニル化にかかわるRAP1GDS1が特定され、mRABL3がKRASのプレニル化を促進することを特定する。すなわち、mRABL3によりKRASのプレニル化が少しだけ上昇することで、KRASの細胞膜への移行が高まり、KRAS活性が上昇することがガンリスクになっていることが示唆される。実際、プレニル化を抑制すると、mRABL3の効果は抑えられる。

この家族の膵臓癌多発についての説明はこれで十分だが、この研究ではこの変異がホモになったとき、RASopathyとよばれる、発生過程でRASが活性化される変異と同じような奇形が生じること、さらにガンデータベースのエクソーム解析の中に、新しいタイプの変異がリストされており、細胞株やゼブラフィッシュを用いた系でこれがガン化に関わることを確認している。

ガンのドライバーになる新しい遺伝子が発見されたという話だが、ゲノム解析が可能になった今こそ、家系解析の重要性を示す研究だった。

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