現在PD-1に対する抗体には本庶先生のオブジーボだけでなく、メルクのキイトルーダが存在するが、ノバルティス、サノフィが開発した抗体も我が国で認可されるのではないだろうか。おそらく抗体薬の場合、作用する分子の特性に差があるとは思えないが、医者として働いている場合、同じ作用機序の薬剤からどれをを選べばいいのだろうか迷うと思う。抗体でもクラスが違ったりするので、できる限り効能の違いと選択基準を示してあげないと、医師は混乱してしまうのではと懸念する。
同じ分子を標的にする抗体薬ならまだしも、さらに化学化合物で分子の機能を抑制する薬剤の場合、標榜している標的分子は同じでも、化合物自体の特性は最初から各社で異なっており、しっかりとしたガイドラインがないと、結局MRさんのいうことだけを信じて薬剤を選ぶことになる。この問題の重要性をFDAが認可したCDK4/6阻害剤で調べたのがハーバード大学からの論文で8月15日号のCell Chemical Biologyに掲載された。タイトルは「Multiomics Profiling Establishes the Polypharmacology of FDA-Approved CDK4/6 Inhibitors and the Potential for Differential Clinical Activity (複数のオミックスを組み合わせた薬剤のプロファイリングによりFDAが認可したCDK4/6阻害剤の多重薬理学が確立され臨床応用での異なる可能性が明らかになる)」だ。
分子標的薬を各社揃って開発する時代、極めて重要な研究だと思う。この研究は最近転移性の乳がんに使われ始めているFDA認可の3種類のCDK4/6阻害剤を、様々な観点から比べている。
結論をまとめると、
- abemaciclib, palbociclib, ribociclibの3種類は共にCDK4/6阻害剤として認可されているが、それぞれの効果は大きく異なっている。
- 3社の中ではPalbociclibとRibociclibは比較的作用が似ているが、abemaciclibは様々なテストで見て、前2者とは作用が大きく異なっている。
- すなわち、前2者は比較的CDK4/6特異的だが、abemaciclibは様々なキナーゼを阻害する活性があり、一般に使われる濃度でcyclinBとCDK1の反応を阻害し、G1期だけでなく、G2期にも作用がある。
- CDK4/6特異性の高い2種類の薬剤は薬剤耐性が発生しやすいが、abemaciclibは増殖抑制だけでなく、細胞死も誘導するので耐性がでにくく、また特異性の高い薬剤に耐性を持ったガンにも効果がある。
などだ。他にも徹底的に調べてあるが、簡単にいうとpalbociclibとribociclibはDGK4/6にかなり特異的だが、特異性が高い結果増殖を抑制できても、ガンは死なないため、様々なメカニズムで薬剤抵抗性が出やすい。一方、abemaciclibは特異性が低く、ある意味で副作用が強いと予想できるが、様々な分子に効果があるため、総合作用で細胞増殖阻害だけでなく、細胞死を誘導することが可能な薬剤といえる。
残念ながら、専門ではない医師の立場から言えば、どれを選ぶのか余計迷うことになりそうだ。従って、ガンの個性に合わせたガイドラインをできるだけ早く作成してもらうこと、また作用機序が異なるとしてその違いを浮き上がらせたガイドラインを作ってもらうことが重要だと思う。各社が競争して販売している場合、最も難しい課題だが、このような点を仕分けて国民や現場の医師に明確な指示を行うのが厚労省の役目ではないだろうか。