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8月31日 同性とのセックス行動の遺伝背景(8月30日号 Science 掲載論文)

2019年8月31日
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同性と気軽にセックスすると聞くと、コミュニケーションの手段として性行動が使われているボノボを思い出す。相手を殺すこともあるチンパンジーと比べるとこの行動がボノボの平和的倫理性に基礎となっているように思うが、では人間ではどうなのだろう。

自らもホモセクシュアルであることを公言する脳科学者サイモン・リーバイのQueer Scienceを読むと、ホモセクシュアルの権利を求める運動は、この性質が生まれや教育の問題だとする世間に向かって、この性向が生まれついてのものであることを認めさせるところから始まる。

今日紹介するオーストラリア・クイーンズランド大学を中心とする国際チームの論文は、まさに同性とのセックス行動の遺伝的背景を扱った研究で8月30日号のScienceに掲載された。タイトルは「Large-scale GWAS reveals insights into the genetic architecture of same-sex sexual behavior (大規模ゲノム検査から同性に対する性行動の遺伝的背景を考える)」だ。

しかし、UKバイオバンクや、民間のゲノムサービスによりゲノム検査を受けた人の数が増えると、これまで考えられなかったような弱い遺伝的傾向についても調査が可能になる。この研究では50万人近いデータが集まっているUKバイオバンクと、23&meなどの民間ゲノムサービスを受けた人の、性的な好みを調査し、遺伝的な背景を特定しようとしている、いわゆるGWAS(全ゲノムレベルでの相関検査)だ。

ただ、ホモセクシュアルだけを対象とするのではなく、同性とのセックス経験のあるすべての人をリストしており、ボノボ的気楽な関係も含んでいる。UKバイオバンクの構成は圧倒的に白人中心だが、驚くのは男性で4.1%、女性で2.8%が同性とのセックス経験があると答えている点だ。さらに、この比率は若い世代ほど高まっており、例えば1940年生まれの男性なら2%なのに、1970年生まれの男性は6%を超えている。白人が中心だとしても、私にとっては驚きの結果だ。

このように、ホモセクシュアル以外の同性セックス経験者を全部含めて調べたのがこの研究の特徴で結果をまとめると、次のようになる。

  • GWASによりはっきりと相関性のある遺伝子多型として5種類が同定され、臭いの感受性、性発達に関わる遺伝子の多型が含まれていることから、遺伝的な背景は存在する。
  • 遺伝性がみられるとしても、はっきりと有意差が見られたこれらの多型で説明できる部分は1%程度で、実際には多くの遺伝子が絡み合う複雑な背景を持っている。
  • 同性とのセックスと相関する遺伝子群が関わる、他の性質を調べると、性格や病気など様々な性質がリストされるが、中でも双極性障害、マリファナの利用、セックス相手の数などが強く相関している。
  • 同性セックスといっても、完全にホモセクシュアルから興味本位の経験まで、大きく行動は変化するが、完全なホモセクシュアルに近いほど遺伝的相関は高い。

他にも様々な解析が行われているが、この4つが重要な結果だと思う。要するに、何か特定の遺伝子で決まるほど単純ではないが、私たちの性格が遺伝子の影響を受ける程度に、同性セックスも影響を受けているという結論になると思う。

今後はサイモン・リーバイが示したような、より明確な脳の解剖学的変化とGWASを組み合わせることが重要になると思うが、MRI検査が進むUKバイオバンクならこれも可能だろう。

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