転写について今どの様に教えているのだろう。基本は、DNAをRNAに読み替えるポリメラーゼ(Pol II)を正しい場所にリクルートし、それを開始点としてRNAを合成しながら、正しい場所でスプライシングする過程といえるが、これだけなら普通の代謝マップの様な簡単そうな図がかけてしまう。しかし、転写開始点ではPol IIはプロモーター、エンハンサーに結合する転写因子とメディエーター含む複合体を形成しているし、スプライシングのためにはこれもスプライソゾームと呼ばれる大きなタンパク質複合体と結合する。この機能の違うしかし巨大な複合体とPol IIの相互作用を追跡することは簡単ではない。
今日紹介するRichard Young研究室からの論文はこの過程をPol IIがタンパク質複合体の中に一種の相転換のように隔離される過程として可視化しようとした研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Pol II phosphorylation regulates a switch between transcriptional and splicing condensates (Pol IIのリン酸化により転写複合体と、スプライシング複合体のスイッチがおこる)」だ。
転写からRNAの合成までに何が起こっているかは明確なイメージがすでにできている。まず、転写因子とメディエーター複合体とPol IIが合体することで転写の開始の用意ができる。このPol II のC末端の2つのセリンがリン酸化されることでPol IIがDNAを移動してRNA合成が起こるが、この時スプライシング複合体がPol II上に形成される。
ただ、この様な巨大な複合体がPol II上でどう転換するのか、そんな簡単な話ではない。この研究では転写のMediator複合体とPol IIのC末が、例えばNanog遺伝子上で合体していること、このMediator との合体にはC末がリン酸化されていない必要があることを示している。
エンハンサーにより転写が進む遺伝子上では、当然のことながらPol IIはスプライシング分子とも合体していることも確認している。すなわち、この転写因子とMediator複合体からスプライシング複合体の乗り換えがおこるのだが、これがPol II のRNA合成開始を誘導するC末のリン酸化に依存しているのか、試験管内で分子の複合体形成を組織化させて調べる一種の相転換を利用した方法で調べている。
結果は予想通りで、C末がリン酸化しないときはMediatorを含む複合体を形成するが、CDD7, CDK9でリン酸化すると今度はスプライシング分子と複合体を形成する。すなわち、C末のセリンリン酸化により、転写因子・Mediator複合体からスプライシング複合体へ乗り換えが起こることが確認されたことになる。
結論はこれだけで、当然の話だと思われる人もいるだろう。しかし、彼らが開発したdroplet assayで、分子が液相からタンパク質複合体へと自然に合体することを目に見えるようにしたことは重要で、これにより現象論から化学的胴体解析へと踏み込めるのだという実感がもてる、さすがYoungのグループだと思える研究だ。