4月25日 神経伝達因子に対するアストロサイトの反応とシグナル伝搬(4月17日 Nature オンライン掲載論文)
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4月25日 神経伝達因子に対するアストロサイトの反応とシグナル伝搬(4月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024年4月25日
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アストロサイトは神経活動の支持細胞として神経回路の維持に関わるとされてきたが、シナプスを囲むように神経と接して、そこで分泌される神経伝達物質に反応することで、伝達物質の取り込みや、血管の制御による酸素供給、そしてシナプスの可塑性調節など複雑な機能を持つことが徐々に明らかになってきた。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、脳スライスや生体脳の Caイメージングを用いて、アストロサイトのグルタミン酸や GABA に対する反応とともに、反応の伝搬について詳細に観察した研究で、4月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Network-level encoding of local neurotransmitters in cortical astrocytes(脳皮質アストロサイトでの局所神経伝達物質のネットワークレベルのエンコーディング)」だ。

アストロサイトがシナプスで分泌されるグルタミン酸や GABA に対する受容体を発現しており、これが刺激されると神経のようにチャンネル開放による膜電位の変化は起こさないが、Gタンパク質活性化、IP3の合成を介して細胞内で貯蔵されていたカルシウムが細胞質に放出されることで、一種の興奮状態を誘導できる。これまで、アストロサイトの興奮は、細胞や脳スライス全体に伝達因子を加える実験で調べられてきたが、この研究ではレーザーを当てた場所だけで刺激物質が活性化される「ケージ化合物活性化」と呼ばれる方法を用いて、アストロサイトを局所的に刺激し、細胞内のカルシウム放出をカルシウムセンサーを用いて追跡している。

伝達因子に対する神経の反応は大体ミリ秒単位の反応だが、アストロサイトの場合、100秒以上続く細胞内カルシウム上昇を観察することができる。そして、グルタミン酸受容体刺激の方が GABA 受容体刺激より強い反応が起こる。脳スライス培養でこれを確認した後、実際の脳で同じことが起こることをマウス脳のイメージングで確認している。脳内で、刺激場所からカルシウム放出が方向性を持って細胞内を広がる写真は感動ものだ。

次に、細胞上の局所刺激が、細胞を超えて周りの細胞へと伝搬する過程を追跡している。刺激されると150秒の間にほぼ200ミクロンに存在する細胞に興奮が伝搬する。すなわち、同じような細胞内カルシウム放出が他の細胞でも誘導される。この伝搬も神経とは全く異なり、細胞間にできた GAP 結合を通ってカルシウムや IP3 が伝達されるためで、この結合を切ると伝搬は強く抑制される。

最後に、グルタミン酸刺激と GABA 刺激でのシグナル伝搬の様式について調べ、強い反応を誘導するグルタミン酸刺激は、周りの細胞の興奮レベルを全般的に上昇させるとともに、強く反応する細胞が順番にシグナルを伝える一方、GABA 刺激では周りの細胞全体の反応性は上がるが、強く反応した細胞が現れてシグナルを伝達する様式は見られないことを明らかにしている。

以上が結果で、これらの結果がシナプスの可塑性維持にどう関わるのかなど機能的な面はわからない。しかし、シナプスでの神経刺激が数百ミリ秒続いた後、同じ刺激がアストロサイトの興奮として200秒近く維持されることは、神経伝達の重み付けにはかなり重要な働きをしているように感じる。このようにゆっくりした反応を組み合わせることで、脳回路の省エネも実現しているのだろう。これにさらに血管の制御が加わるとなると、アストロサイトの機能は、人工知能研究にとっても鍵になるかもしれない。

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4月24日 皮膚免疫システムの男女差(3月12日号 Science 掲載論文)

2024年4月24日
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男女差はないと困る領域と、ない方がよい領域に分かれる。阪大の林さんたちが示したように、幹細胞工学の粋を極めれば、オスだけから個体を作ることは可能だが、作った個体の発生にはメスの体が必要になる。すなわち、性や生殖は男女差が必須の課程といえる。一方、X染色体の不活化が起こる巧妙な過程を見ると、多くの生命過程では男女差をなくす方向に進む。その究極が、20世紀に進んだ男女差別をなくす社会レベルの取り組みといえる。

ただ、どれほど男女差をなくす方向にシステムが進化していっても、制御しきれないほころびが残る。これが、例えば病気の男女差として現れてくる。この前のCovid-19パンデミックで、男性の方が重症化しやすかったのは典型的な例だ。

今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、皮膚の樹状細胞ネットワークの男女差が発生するメカニズムについての研究で、比較的古典的な研究だが、免疫系で残る男女差の複雑性を知ることができた。タイトルは「Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis(皮膚免疫の性差はアンドロゲン、ILC、樹状細胞を核に維持される)」で、4月12日号 Science に掲載された。

免疫の男女差についての研究は数限りなく発表されてきたので、何を今更と思って読み始めたが、マウスでもわかっているようでわかっていないことがまずわかる。まず驚いたのが、皮膚、肺、腸といわゆる体の外側と上皮で接している組織で、様々なタイプのリンパ球の数を雄雌で比較すると、皮膚や肺では大きく変動しているのに、腸ではほとんど男女差がない点だ。

さらに驚いたのが、細菌叢への反応が雄雌の差に関わるのではと、無菌マウスで調べると、肺でのリンパ球の数の差が消失する点だ。なぜここまで各臓器で差が出るのか不思議だ。特に、細菌叢が男女差を形成している肺で何が起こっているのか是非知りたいところだが、この研究ではこれ以上の追及は行われていない。

結局、体本来の仕組みによる違いとして、皮膚の免疫システムが残り、この性差のメカニズムが追求されている。結果は割と単純で、実験の順番にこだわらず答えをまとめると次のようになる。

まず性差の最終結果は、樹状細胞のネットワークの密度として反映されている。すなわち、女性の方が密度が高く、免疫反応を促進する体制になっている。

この差を生み出すのは、エストロゲンではなくアンドロゲンで、アンドロゲンのレベルが低下するとオスでもメス型の樹状細胞ネットワークに発展する。他の組織でアンドロゲンの差が見られない理由については、皮膚ケラチノサイトがアンドロゲンを合成しているので、この結果全身のアンドロゲンレベルの差が強く皮膚では見られると説明している。

アンドロゲンが働くのは、リンパ組織や炎症の核として働く2型 innate lymphoid cell(ILC2) で、アンドロゲンの作用により ILC2 が分泌する GM-CSF が押さえられ、結果樹状細胞ネットワークの形成が押すでは押さえられるというシナリオになる。

結果は以上で、研究としては古典的な研究で、納得して終わるのだが、いろんな連想を誘発する。特に面白いのは、皮膚だけでアンドロゲンの差が生まれる点で、元々性差は皮膚で表現されることを考えると、アンドロゲンがケラチノサイトで発現されて、アンドロゲンへの感度を上げる必要があった名残かもしれない。また、GM-CSFは 欠損すると肺胞蛋白症の原因になるが、皮膚で樹状細胞ネットワーク形成の主役になっていることも、気になる点だ。性差の研究はこれからも面白い分野として続くと思う。

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4月23日 人間の皮質神経回路の特性を探る(4月19日号 Science 掲載論文)

2024年4月23日
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今日で脳神経系の論文紹介4日目になるが、しかし間違いなく21世紀の脳科学は面白い。医学部のピカピカの1年生に入学式の翌日に講義したが、感想文でも脳科学を研究したいという学生が多かった。そんな雰囲気を感じているのだろう。

さて、Research Gate に公開されている図(https://www.researchgate.net/figure/Layer-2-3-pyramidal-cells-Layer-3-pyramidal-cells-are-summarized-in-this-cartoon-blue_fig6_23449476)を見てほしい。ここには大脳皮質に並ぶ錐体細胞と呼ばれる興奮神経が図示されている。錐体細胞は一本の長い軸索(図では下の方に走る線)で遠隔にある標的と結合しているが、樹状突起と呼ばれる短い突起を出して局所の錐体細胞同士がつながっている。この層内錐体神経同士のシナプス結合を正確に把握するには、細胞膜の活動を記録するパッチクランプ法を用いることが必要で、これまでマウスの脳自体、あるいは切り出した脳組織を用いて回路の性質が解析されてきた。そして、2/3 層内の錐体神経同士は相互的に結合する円環構造を形成していることが知られていた。

今日紹介するベルリン・シャリテ病院からの論文は、てんかんや脳腫瘍での外科手術の機会を捉え、切除された組織で病巣から離れた場所の皮質 2/3 層のシナプス結合を8本のパッチクランプ電極で記録し、それぞれの結合性のルールを調べた研究で、4月19日号 Science に掲載された。タイトルは「Directed and acyclic synaptic connectivity in the human layer 2-3 cortical microcircuit(人間の皮質 2/3 層に見られる一方向性で回帰性がないシナプス接合性)」だ。

一つの神経を刺激したとき、8−10本のパッチクランプ電極を用いて同時記録したこ異なる細胞から活動を比較することで、神経の結合性を探索している。例えば、一つのシナプスの反応が他のシナプスの反応と同期していた場合は、結合があることになる。異なる細胞を刺激してそれぞれの神経反応記録を繰り返せば、結合の方向性、再帰性などが明らかになる。

この研究の最も重要な発見は、人間の皮質 2/3 層では錐体神経同士が相互結合している確率が極めて低いことで、9割近い結合は一方向性になっている。さらに、一方向性が繋がって最終的に元に返るという回帰性もほとんどない。また、錐体神経同士の結合は解剖学的に近いほど強く、離れるほど結合性が低下する。

このような特徴を持つ神経回路をコンピュータシュミレーションして、相互結合が強く、再規制の強いマウス型の回路と、人間型の回路のニューラルネットとしてのキャパシティーを調べると、人間型の方がネットワーク空間が格段に拡大し、機械学習の制度が格段に上昇することを示している。

実際のネットワークは数種類の抑制神経細胞が複雑に絡み合っているので、完全なシュミレーションは難しいが、これまでわかっている様々なデータを元に、ネットワークの重み付けが行われるように計算しているが、同じ条件でネットワークの相互性がない方が遙かに強い重み付けが可能になることが示された。

素人目に見ると、現在使われている深層ニューラルネットワークは、奇しくも人間と同じということになるが、とすると今後新しいニューラルネットを考えるとき、単純にフィードバックや再帰性を付与すればよいという話ではなくなるようだ。

今後、さらに効率がよいエネルギーエフィシエントなネットワークの構築を考えるとき、このような動物や人間の回路を詳しく検討することが重要になる。おそらく重要な問いは、一見キャパシティーの低い相互性の高いニューラルネットをなぜ多くの動物が維持しているのか、そのメリット何かだ。さらに、ニューラルネットの相互性を排除する進化がどのように進んだのかも面白い。いずれにせよ、実際の脳回路とニューラルネットの比較研究はますます盛んになると思う。

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4月22日 BMP2が生後神経回路の維持に関わっている(4月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024年4月22日
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BMP、Wnt、 Shhと単語を示されても一般の人には何のことかわからないと思うが、これらは私たちの体が作られる発生過程で、細胞の増殖や分化、そして形態までも支持するシグナル分子の中心に存在するファミリー分子だ。当然、脳の発生にもこれらシグナルは中心的役割を演じており、例えば神経管の背側と腹側から分泌される BMPとShh は神経管内の領域を決めていることが知られている。ところが、個体発生が完成後のこれら分子の役割については解析が進んでいない。

今日紹介するスイス・バーゼル大学からの論文は、完成した脳での BMPシグナルの機能も存在するはずだと検討し、抑制性神経のシナプス結合を調節している可能性を示した研究で、4月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Control of neuronal excitation–inhibition balance by BMP–SMAD1 signalling(神経の興奮と抑制のバランスは BMP-SMAD シグナルにより調節されている)」だ。

以前から様々な BMP が脳神経系で発現していることは知られていたようだ。この研究では BMP2、BMP4、 BMP6、 BMP7の4種類に絞って脳内での発現を調べ、BMP2がグルタミン酸作動性興奮神経で強く発現していることを特定している。また、BMP2が働きかける側の分子がパルボアルブミン(PV)を発現する抑制性神経に発現していることも明らかにしている。

次に、BMP2が脳内の刺激に依存して発現しているのか調べる目的で、BMP2を発現する興奮神経を抑制する PV神経細胞を遺伝学的に抑える実験を行うと、興奮神経の興奮が高まるとともに、周りの PV神経で BMP2依存的遺伝子発現が高まる。すなわち、興奮神経と抑制神経のバランスが BMP2により調節されていることがわかった。

次に PV神経で BMP2に反応するシグナルについて調べ、主に SMAD1 が働いていること、そしてマウス新皮質では、239種類の遺伝子に SMAD1 の調節を受けていることを明らかにしている。

さらにこれらのシグナルの機能的役割を調べるため、皮質上層部の興奮神経で BMP2遺伝子をノックアウトすると、PV神経とのシナプス数が低下すること、また PV神経で SMAD1 をノックアウトすると、シナプス結合が半分近くに減少し、興奮神経の発火が高まることを示している。

このような神経学的以上の結果、PV神経で SMAD1 が欠損すると、てんかん様の発作が見られる。このように興奮神経と抑制神経間の BMPシグナルが欠損する結果、脳へ電気刺激を与えたとき、PV神経の興奮が低下し、その結果として抑制シナプス形成が低下する結果、興奮神経はより興奮しやすくなる。ただ、これは遺伝子異常を誘導した場合で、正常では興奮神経興奮により、PV神経が BMP 刺激を受け、その結果として転写プログラムが変わり、興奮神経へのシナプスが強化されることで、フィードバックループが形成されることになる。

通常神経のフィードバックループというと、神経興奮直後に誘導される転写因子により誘導されるシナプス変化を指すことが多いが、BMP のように遅い時間レベルでシナプスの再プログラムが起こることで、興奮と抑制のバランスの維持を確実にしているという今回の結果は、発生プログラムが生後も神経機能維持に働き続けていることを明らかにした。今後てんかんなどの研究にも重要な指摘ではないかと思う。

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4月21日 薬物中毒の神経メカニズム(4月19日 Science 掲載論文)

2024年4月21日
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メディアではギャンブル依存症が水原通訳の事件との絡みで大きくクローズアップされているが、ギャンブルでも、薬物でも、依存症はドーパミンを主な神経伝達物質とする、報酬/快楽システムが関わっていることは広く知られている。ただ、このシステムは中毒でクローズアップされるが、実際に私たちが生きていくためのモティベーションに関わる基本回路で、食欲や渇きもこのシステムが関与している。

今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、薬物中毒が本来の食欲などに影響を及ぼすメカニズムを調べた研究で、4月19日号 Science に掲載された。タイトルは「Drugs of abuse hijack a mesolimbic pathway that processes homeostatic need(薬物中毒は正常のホメオスタシスに必要な中脳辺縁系をハイジャックする)」だ。

この研究ではコカインとモルフィネに対する中毒について調べているが、原理は同じであること、モルフィネの場合少し複雑な回路になるので、今日はコカイン中毒の結果に絞って紹介する。

この研究で着目したのは、コカイン中毒に陥ると、正常の食欲や渇きが欠損してしまうという現象で、中毒により正常の報酬/快楽回路が傷害されていることを強く示唆する。事実マウスにコカインを投与すると、空腹時の食欲が強く抑制される。このとき活動する神経領域を調べると、報酬回路の中心でドーパミンを放出することで知られる側座核に反応が見られ、この神経細胞を特異的に抑制すると、コカインによる食欲抑制を抑えることができる。

側座核で、コカイン投与時に興奮する細胞を、空腹時に興奮する細胞と比較すると、コカインだけに反応する細胞はほんの少しで、ほとんどが食欲により興奮する側座各細胞とオーバーラップしている。また同じ細胞も、コカイン刺激の方が強い反応を示す。以上のことから、コカイン投与で正常の食欲が失われるのは、食という基本的なホメオスターシスに関わる快楽細胞がコカイン刺激でハイジャックされ正常反応が消失するためであることがわかった。

この領域にはドーパミンに反応する2種類の受容体D1とD2発現神経が存在し、食欲には両方関わっているが、D1は快楽の方、D2は嫌悪の方に関わる。コカインに対する反応を見ると、快楽に関わるD1の方が強く刺激され、D2の方の反応は低いことがわかった。

このコカイン反応性D1神経は、繰り返す投与で閾値が変化し、コカインをやめた後もコカインにより感受性が高く、正常の食欲には反応しなくなる。このときの神経変化に関わる分子回路を探索するため、コカインに反応した細胞を Fos 発現で特定し、これが発現している遺伝子を探索し、コカインでも、モルフィネでも同様に発現が上昇する分子として、GTP結合分子で mTOR のリン酸化に関わる Rheb分子を特定する。

最後に、この分子を D1神経でノックアウトすると、コカイン刺激により誘導される多くの遺伝子の発現が抑えられ、同時にコカイン刺激による食欲の抑制が起こらなくなった。

以上が結果で、コカインと食欲で同じ快楽細胞が働いているため、コカインの強い刺激が正常報酬/快楽回路を狂わすのが薬物依存症のメカニズムであることが示された。おそらくギャンブル依存症も同じことだが、おそらくギャンブル依存症のマウスを作成するのは難しそうだ。ギャンブルで食欲が落ちるのか、是非知りたいところだ。

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4月20日 人間の作業記憶維持メカニズムを脳外科手術中に調べる(4月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024年4月20日
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経験論の哲学者ヒュームは、知覚認識(彼の言葉で Impression )が他の impression や記憶と統合され観念(idea)が形成されることを明確に述べていた(https://aasj.jp/news/philosophy/21273)。脳科学が進んだ今、この情報を短期間保持し、観念へと処理する過程を作業記憶過程として扱っている。そして、この統合過程を象徴する現象として、脳波のガンマ波の振幅変化が、他の領域から伝わるテータ波に同調するテータ/ガンマ・位相振幅カプリング(PAC)が注目されてきたが、人間でこの過程を単一神経レベルで調べる研究は簡単ではない。

今日紹介する Cedars-Sinai 医学センターからの論文は、意識を保ったまま行う脳外科手術の際に作業記憶の中心海馬や、扁桃体、そして腹内側前頭前野などに電極を設置し、個々の神経の興奮パターンを調べ、画像の作業記憶が維持されている間に見られる PAC の機能について調べた研究で、4月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Control of working memory by phaseamplitude coupling of human hippocampal neurons(ヒト海馬神経細胞での位相振幅カプリングによる作業記憶調節)」だ。

研究では、画像を1枚、あるいは3枚見せて作業記憶を維持させ、新しく示した画像がその中にあったかを答えさせる、数秒間の作業記憶維持課題を行っているときの各神経細胞の反応を見ている。一つのデータをとるために必要な時間の点からも、脳外科手術時の実験としてよく考えられた実験だ。

研究ではまず PAC を示す神経細胞を探索し、海馬だけでなく、扁桃体、腹内側前頭前野にも存在していることを確認している。

PAC細胞を特定した後、次に PAC細胞自体が作業記憶時の情報統合への関わりを調べている。作業記憶で統合される情報にカテゴリーがあり、例えば顔の認識を行うとき、人間の顔というカテゴリー細胞情報が統合される。作業記憶が成立するとき、写真のカテゴリーに反応する細胞を調べると、海馬では24%がカテゴリーに反応する細胞と特定できる。しかし、反応パターンを解析すると、カテゴリーに対する反応は PAC とは無関係であることがわかる。

では PAC細胞は何か?ここからの解析は様々な情報処理技術が組み合わさった複雑な解析になり、詳細を完全に理解しているわけではない。ただわかりやすく言ってしまうと、PAC はそれ自身はカテゴリー細胞ではないが、前頭葉から来るテータ波とカプリングして、この性質を周りのカテゴリー細胞に伝達することで、ノイズを減らし、記憶の確実性を高めていることが明らかになった。

すなわち、PAC は結合した回路レベルというより、海馬の局所に存在する協調的に連携した細胞集団が、全体として前頭葉からの情報へカプリングする過程を反映していると結論している。そして、感覚器からのインプットをトップダウンに制御する過程はすべからくこのような神経集団の調節で行われていると結論している。

海馬での協調的な神経集団がどう結合しているかシナプスレベルの解析ができないので、ここは動物でスパインの活動を調べて、本当に周りの細胞同士がアンサンブルを形成しているかを知る必要があるだろう。しかし、なんといっても人間の脳でこれだけのことができることに驚く。脳外科手術時に脳神経反応を調べたパイオニアはカナダのペンフィールドだが、脳の活動を人工知能を駆使して調べるようになるとは想像もしなかっただろう。しかし、このような統合の集団体制の原理を知ることで、さらにレベルの高い人工知能設計へ進めるのではないだろうか。

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4月19日 肺再生幹細胞システムを遺伝子改変マウスを組み合わせて徹底的に再検討する(4月4日 Cell オンライン掲載論文)

2024年4月19日
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肺は幹細胞システムで、細胞の新陳代謝により維持されている。老化すると当然この新陳代謝が低下し、肺機能は低下する。この新陳代謝は気管レベル、小気管支レベル、そして肺胞レベルで維持されており、肺胞レベルでは2型肺胞細胞(AT2)を機転とする幹細胞システムができあがっていることが知られている。AT2 システムは、肺気腫などの機能不全や、特に肺腺ガンでの発ガン過程に関わるとして、最近急速に研究が進んできた。特に最近のトピックスは、肺の損傷治癒過程では分化した AT1 細胞がもう一度 AT2 へ脱分化して細胞のリクルートを促進するという発見で、AT1 細胞特異的マーカーでラベルした細胞が AT2 にも混じっていることを示す結果に基づいている。

今日紹介する中国杭州の中国科学院大学からの論文は、遺伝子改変マウスを組み合わせて細胞ラベルの特異性を徹底することで、AT1 から AT2 細胞が分化する可能性を否定し、新しい再生経路を明らかにした研究で、4月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Tracing the origin of alveolar stem cells in lung repair and regeneration(肺の修復と再生での肺胞幹細胞の起源を追跡する)」だ。

細胞系譜の研究は各細胞の特異的マーカーが得られるかどうかにかかっている。これまで AT1 細胞マーカーとしては、Hopx や Ager 分子(機能は問わずにマーカーとしてだけ議論するので、どんな分子かは気にせず読んでほしい)が使われ、Hopx にノックインした Cre 組み替え酵素などを用いて細胞をパーマネントにラベルすると、AT2 にラベルした細胞が見つかるといった実験が行われてきた。

この研究でも、それぞれのマーカーを用いてこれまでの実験を確認しているが、ラベルした細胞を詳しく調べると AT1 だけでなく、気管レベルの幹細胞として知られてきた Club 細胞や Broncho alveolar stem cell (BASC) もラベルされることがわかり、AT1 から AT2 が分化したと単純に結論できないと考えた。

そこで、AT1、Club細胞、そして BASC を特異的にラベルする方法を探り、AT1 マーカーとして使われたHopxとAger が Club 細胞と BASC には別々に発現していることに着目し、Hopx と Ager が両方発現した細胞だけラベルするマウスを作成、AT1 を他の細胞から区別することに成功する。そして、ブレオマイシンや機械的損傷に対する再生を誘導、AT1 から AT2 への脱分化を調べると、全く脱分化しないことを示している。要するに、分子マーカーを使うとき、マーカーの罠に落ちて間違った結論になる可能性がある。

では、これまで AT1 から由来すると考えられていた AT2 細胞はどこから来るのか?これを調べるために、さらに複雑な遺伝子導入マウスの組み合わせを行い、Club 細胞、BASC、そして AT2 を、2つの標識の発現パターンで区別し、Club 細胞も、BASC ともに AT2 細胞へと分化して、AT1 細胞のリクルートメントに寄与することを明らかにしている。

こうして2種類の細胞に由来する AT2 細胞を特定した後、それぞれを single cell RNA sequencing で調べ、Club 細胞、BASC それぞれ全くことなる分化経路を通って AT2 に分化することを明らかにしている。

次にそれぞれの経路での Notch シグナルの役割を、Club 細胞、BASC でノックアウトする実験を行い、Notch シグナルが欠損すると Club 細胞から AT2 への分化が抑制される一方、BASCからの分化は促進されることを発見する。さらに、BASC 特異的に Notch シグナルを高めると、今度は肺胞全体が BASC に似た上皮で占められ、AT2、AT1 細胞が消失することを示している。

以上から、1)AT1 は AT2 へ脱分化しない、2)Club 細胞と BASC は損傷再生時に AT2、そして AT1 へ分化して損傷を助ける、3)それぞれの AT2 への分化経路は全くことなり、Notch シグナルはそれぞれの経路で全く逆の働きをしている、と結論できる。

幹細胞研究でマーカーを組み合わせるというと表面マーカーを指すことが多かったが、複雑な掛け合わせを繰り返せば、遺伝子改変による細胞特異的ラベルや操作が可能であることを見事に示した力作だと思う。ただ論文を読めばそれがいかに大変なことかもわかる。

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4月18日 独自に学習する脊髄感覚運動学習回路(4月12日号 Science 掲載論文)

2024年4月18日
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完全脊髄損傷で脳と脊髄が切り離された患者さんでも、脊髄での感覚運動に関わる電気活動を記録し、それを用いて自分の足を動かせるようにするローザンヌ大学からの論文についてはこのブログでも何回か紹介し、YouTubeでも解説した。このような方法を可能にしているのが、運動に必要なインプット、アウトプットを脳から切り離された脊髄レベルで完成させることができるからだ。従って、このような技術をさらにレベルアップするためには、脊髄に形成されている感覚、運動神経回路の解明が重要になる。

今日紹介するベルギー・ルーベンにあるフランダース神経電子研究所からの論文は、刺激により足を引っ込める反応を学習により変化させたときに起こる神経回路変化を詳しく調べた研究で、4月12日Science に掲載された。タイトルは「Two inhibitory neuronal classes govern acquisition and recall of spinal sensorimotor adaptation(脊髄の感覚運動適応の獲得と再現には2種類の抑制性神経が関わる)」だ。

研究では脳から切り離した足の動きをカメラで記録し、足のポジションがほんの少し変化すると刺激が入るようにして学習をさせ、足先を刺激して起こる足の反射への効果を見ている。元々反射は存在するので、学習効果をどう調べるのかと思って読んだところ、なんとスローモーションカメラで63種類の運動パターンデータを記録して、動きのパターンが学習によって全く異なることを形態の主成分解析で行っている。まさに解剖学と生理学が統合された検出方法だ。

おそらく脳のように学習の長期固定化という過程はないと思うが、短期間学習効果は維持できる。次にこれを検出する系を作って、学習した短期記憶に関わる神経回路を、様々な遺伝子改変マウスを用いて調べ、まず感覚を受け取る神経のうち Ptf1α 陽性細胞が足の運動学習パターン形成に関わることを明らかにしている。

学習に関わる感覚インプット細胞が明らかになったので、その神経興奮パターンを調べると、学習によって Ptf1α 細胞の興奮が高められ、これが刺激への反応性を作っていることがわかる。

次に、インプットを受ける神経細胞活動を調べていくと、Aδ/C 神経細胞の興奮に学習効果が出ていることがわかる。ただ、カンデルらが研究した有名なアメフラシの水管反射に関わる単純な回路とは全く異なり、Aδ/C 神経細胞でも学習した神経は前シナプスレベルで閾値が高めてノイズを下げていることがわかる。

次にこの効果の持続は、おそらく運動神経の興奮を調節する抑制性神経の調節によるのではと考え、発現分子が異なり、相互に抑制しあう2種類の抑制性神経が学習によって全く逆の興奮性を獲得することで、通常なら抑制的に調節されている運動の刺激閾値が調節されていることを明らかにしている。

以上が結果で、単純に見えても、複雑な神経回路が成立することで、一本の線では決して描けない多数の神経でできている回路が調節されているのがよくわかる。こうして回路を明らかにすることは、今後 AI を用いた脊髄損傷患者さんの治療に大きく役立つことは間違いない。加えて、回路の複雑性、合目的性を明らかにすることで、現在使われている深層ニューラルネットのさらなる進化にも大きく役に立つと思う。

人工知能で遅れた我が国はキャッチアップすることを主に投資をしているが、さらに先を考えると実際の脳神経回路の研究に力を入れ、常に脳科学と人工知能の研究が相互作用することで、全く新しい回路設計などを開発することも重要になると思う。

この研究は竹岡さんという外国で独立して頑張っている女性研究者の研究室からの論文で、人工知能の後れを取り戻すためには、少し回り道でもこのような脳科学の人材が我が国で活躍できることが重要になると思う。

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4月17日 人工血小板はどこまで可能か?(4月10日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年4月17日
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血小板は損傷した血管からシグナルを受け取ると、自らも傷口のマトリックスに結合して、トロンビンなどを介する凝固反応を誘導する。また、傷口に形成されるフィブリンの中に潜り込んで凝固塊を収縮させ増強して出血を止める。このように、敏感でなおかつ様々な機能が小さな膜の中に込められているので、現在も長期保存が難しく、慢性的に不足する。

このような血小板が持つすべての機能を人工物で再現することは難しいが、止血に必要な一部の機能だけを再現して、血小板の機能を助け、止血を促進する可能性がある。今日紹介するノースカロライナ州立大学からの論文は、アクリルアミドゲルとフィブリンと結合するナノボディーを組み合わせて、傷口に形成されるフィブリンネットワークの機能を高めて止血を促進しようとする試みで、4月10日号 Science Translational Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Ultrasoft platelet-like particles stop bleeding in rodent and porcine models of trauma(超柔軟な血小板様の粒子は齧歯類と豚モデルで出血を止める)」だ。

血小板が活性化されると、極めて複雑な凝固カスケードが開始されるが、最終的に形成された酵素トロンビンによりフィブリノーゲンからフィブリンが合成され、フィブリンネットワークが形成される。このネットワークに血小板が固定され、凝固塊の強度を高めている。

この研究では形成され始めたフィブリンネットワークに潜り込んで強度を高めるという一点に絞ったナノ粒子を開発している。

材料はポリアクリルアミドだが、架橋を最低限に絞ることで柔軟度が極めて高い粒子を設計している。これによりフィブリンネットワークの中で自由に形を変化させ、フィブリン凝固塊の密度を高めることができる。ただ、このままでは傷口のフィブリンネットワークには結合できないので、この粒子に、H鎖だけでフィブリンに対する抗体活性をもつナノボディーと結合させることで、傷口に形成されるフィブリンネットワークに統合されるよう設計している。

論文では様々なナノボディーを比較し、最もフィブリン特異的結合力が高いナノボディーを選び、フィブリンネットワークの密度を期待通り高めてくれるか、試験管内で検討、これを結合させたポリアクリルアミドゲルの止血能を調べている。

結果だが、マウスの肝臓に切開を入れる出血モデルで、あるいは大腿動脈に穴を開けるモデルでは、期待通り出血を抑えることができる。また設計通り、傷口のフィブリンネットワークに入り込んでいることも確認している。

通常フィブリンは損傷部位のみに形成されるが、ハイドロゲルにより血管内に形成されると取り返しがつかない。そこで様々な濃度のハイドロゲルを投与後、全身の臓器を調べ副作用が起こっていないかも確認している。また基本的には、投与後速やかに体外へ排出される。驚くことに体外への排出は腎臓を通して行われる。すなわち、糸球体のフィルターを通り抜けるだけの柔軟性があることになる。

最後に豚の肝臓を切開して出血させる実験で、止血効果を確かめている。実際のデータを見ると、フィブリンに対する抗体をつけない場合も、柔らかいハイドロゲルは止血効果を持っているので、アクリルアミドの素材としての可能性を示している。

以上が結果で、傷口にフィブリンネットワークが形成できるという条件で、出血を抑えることはできそうだ。ただ、血小板と比べると、凝固カスケード誘導、凝集反応誘導能は全くなく、一種の絆創膏といえる。ただ、素材としては面白いので、今後様々な分子を加えてより血小板に近づける努力が行われると期待する。人工材料も捨てたものではない。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月16日 人間の脳で神経細胞の由来を調べる(4月10日 Nature オンライン掲載論文)

2024年4月16日
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遺伝子操作技術とともに発生学は大きな変革を遂げ、私も現役時代この進展を目の当たりにしてきた。しかし、遺伝子操作は人間にはほぼ利用できないため、モデル動物でわかったことを、発生後、あるいは胎児脳の解析により再確認する作業が必要になる。この作業は簡単ではなかったが、このギャップを埋めるため、iPS細胞など多能性幹細胞からの分化培養を使えるようになり、さらに single cell レベルのゲノム解析技術が人間についての研究を大きく進展させてきた。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、これらの新しいテクノロジーに、ゲノムシークエンシングで特定できる体細胞突然変異を組み合わせることで、脳に分布する各細胞の系譜を明らかにしようとした研究で、4月10日 Nature オンライン掲載された。タイトルは「Cell-type-resolved mosaicism reveals clonal dynamics of the human forebrain(細胞レベルで調べたモザイク性を用いて人間の前頭葉の神経細胞動態が明らかになった)」だ。

発生過程では細胞増殖が繰り返されるため、細胞内に突然変異が蓄積しやすい。変異は原則ランダムに起こるので、特定の変異を用いてその細胞に由来する子孫を定義することができる。すなわちすでにできあがった脳に存在する各神経細胞の由来を定義できる。このためには、まず系譜を特定できる突然変異を探索する必要がある。

この研究ではDNAの保存状態がいい2人の保存死後脳各部分を集めて、300回を超える全ゲノム解析を行い、それぞれ287、789種類の変異が系譜の印として利用できることを特定している。

次いで、この系譜特定変異を、同じ組織からマーカー発現により分類した興奮神経細胞と、3種類(DLX1、TBR1、COUPTFII をそれぞれ発現する)抑制性神経に分けて、そこから増幅した DNA での系譜標識遺伝子を元に、各細胞の系譜関係を明らかにしている。また、実験によっては single cell レベルで、DNA と RNA を別々に解析し、細胞の種類を確認した DNA を用いて系譜関係を調べている。

簡単に述べてしまったが、それぞれのステップでの方法論だけでなく、ゲノム解析から標識遺伝子を元に系譜を作成するための深層学習モデル作成など、大変な実験だ。

もちろんすべての細胞の系譜を調べることはできないので、数百個の十分なデータがそろった細胞について、系譜解析を行っている。結果については以下に箇条書きでまとめる。

  1. 興奮神経は脳が形成されている過程で、ラディアルグリアと呼ばれる幹細胞から局所で形成されていることが知られている。事実、それぞれの領域での興奮神経細胞は同じ系譜に属することがわかるが、海馬の興奮神経細胞は、他の領域の興奮神経細胞から分離しており、発生の早い時期に運命が決定されている。
  2. 抑制神経ではこれまで終脳腹側幹細胞が移動してくると考えられていたが、興奮神経とともに脳背側、局所で発生するポピュレーションが存在している。これらは背側新皮質由来で、興奮神経と同じ由来で、それぞれ分化した後、それぞれの系列の子孫を作る。興奮神経と比べると、抑制精神系は局所でもより広い範囲へ分布できる。
  3. 背側由来の幹細胞は、前後軸に沿って移動して、そこで興奮神経と抑制性神経を発生させる幹細胞へ分化する。
  4. 大体6割ぐらいの抑制性神経が終脳腹側から移動して形成される。この中で、DLX1 陽性細胞とTBR1 陽性細胞は系譜が重複するが、CPUPTFII は別の系譜で、同じ幹細胞由来の子孫が皮質に広く広がっている。

以上が重要な結果で、マウスとは異なり、抑制精神系のかなりの部分が終脳腹側ではなく、興奮神経にも分化できる幹細胞が移動してきた局所で分化して発生することは、ヒトでの研究の重要性がよくわかる。それでもヒトで調べるのは大変なコストと労力が必要なのは間違いない。

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