今日紹介するの論文は中枢神経から自律神経系を介する脂肪組織のコントロールについてのエール大学からの論文だ。勿論食欲調節を通して脂肪組織を調節する事が出来ることは良く知られた事実だ。国立循環器病センターの寒川さん達が発見した胃で分泌される空腹ホルモン・グレリンや、脂肪から分泌される満腹ホルモン・レプチンなどは全て視床下部のニューロペプチドや、アグーチ用ペプチド(AgRP)を造る弓状核の神経細胞を介して食欲を摂食行動につなげ、結果脂肪組織に影響する。ただ、この摂食と言う脳高次機能を介するだけではなく、同じ視床の細胞が自律神経を介して直接脂肪細胞を調整する可能性が知られていた。この研究はこの摂食中枢と脂肪組織の直接回路を解明した研究で、タイトルは「O-GlcNAc transferase enables AgRP neurons to suppress browning of white fat(O-GlcNAc transferase の作用により視床下部AgRP産生ニューロンは白色脂肪の褐色化を抑制している。)」だ。おそらく少し説明が必要なのは、白色脂肪組織の褐色化という言葉だろう。元々脂肪組織は白色脂肪組織と褐色脂肪組織に分類され、脂肪を活発に燃やしているのが褐色脂肪組織とされて来た。ところが最近になって、大人の白色脂肪組織にもベージュ脂肪細胞と名付けられた熱を発生させる脂肪細胞が存在し、白色細胞から分化させる事が出来る事が示された。この結果、白色細胞の褐色化を調節して脂肪を減らせるのではという期待から、脂肪組織研究分野ではちょっとしたブームになっている。この研究では、先ず空腹や空腹ホルモン・グレリン投与により視床AgRP陽性ニューロンの活性化が、白色脂肪細胞の褐色化を抑制している事を確認した上で、このニューロンに起こる変化をしらみつぶしに調べ、タイトルにあるO-GlcNAc transferase(OGT)が上昇する事を突き止めた。と簡単に言うが、このニューロンだけを辛み物質カプサイシンで刺激できるようにしたマウスを作るなど、実験としては手がかかっている。さて、OGTはタンパク質に糖を添加しその機能を変化させる分子だが、この酵素をこのニューロンで働けなくすると、カリウムチャンネルの機能が低下し、結果ニューロンの自然発火が押さえられる。この自然発火率が低下すると、自律神経を介して白色脂肪組織が褐色化し、脂肪を消費し、熱を発生するようになる。ところが、OGTの作用が抑制されるだけなら、食欲には直接影響しない。このためOGTがAgRPで発現できないマウスは、食欲は正常で高脂肪食もしっかりと摂取するが、太らず、またインシュリン抵抗性も起こらないと言う結果だ。一言でまとめると、視床下部の機能を食欲調節と白色脂肪細胞の褐色化に分離する事に成功したと言う事になる。勿論このニューロンでOGT酵素だけを変化させるのは困難だろう。出来たとしてもそんな薬を飲むのは心配だ。おそらくこの現象が創薬につながるのはまだまだ先の事だろう。大事なのは、昨日、今日と紹介して来た新しいメカニズムをしっかりと理解する事で、脳と代謝ネットワークを無理なく調整して行ける生活プログラムを作る事だろう。2編の論文を読んで大分賢くなった気がする。
10月13日:脂肪組織をコントロールするII(10月9日号Cell誌掲載論文)
2014年10月13日
カテゴリ:論文ウォッチ