私事になるが私の妻は大動脈弁閉鎖不全と診断され、経過観察中だ。と言っても、まだ症状はなく、山登りでも私より元気だ。しかし、この病気は徐々にではあっても必ず進行する。症状が出た時には、手術で弁を人工弁に置き換える必要がある。ただいつ手術を受けるかは患者にとって大問題だ。心臓手術ということで、体力のある元気なうちに受けたいと思う。とは言え、症状も出ていないのに予防的に受けるのも問題だ。人工弁にも一定の寿命があることを考えると、手術は遅いほどいい。しかし今元気だからといって80を超してから手術を受けるのは大変だ。その時は経カテーテル(TAVR)もあるからなどと考えながら、経過観察を続けている。そんな時、今日紹介するメイヨークリニックからの論文を見つけ、全く個人的興味から読んでみた。タイトルは「Aortic valve replacement for severe aortic valve steoosis in the nonagenarian patients (90歳以上の重度大動脈弁閉鎖症の大動脈弁置換手術の成績)」で、Annals Thoracic Surgeryオンライン版に掲載された。この研究は、過去20年間にメイヨークリニックで行われた90歳以上の患者さんに対する大動脈弁置換術の成績をまとめた論文だ。59例のうち33例は開胸下弁置換手術を行なっており、残りの26例はカテーテルを用いるTAVRでより侵襲の少ない方法だ。結論的には、開胸下弁置換術を行なった33例のうち2例、TAVRのうち1例で手術による死亡が観察されているが、他の患者さんは退院までこぎつけている。術前の状態を見ると、通常手術例では、TAVR を受けた患者さんと比べると、動脈硬化症状の少ない患者さんが(自然に)選ばれている。逆に言うと、TAVRが使えるようになってから、より動脈硬化の激しい高齢者にも弁置換術が行なえるようになった事を示している。実際、TAVRを受けた患者さんの実に34%が冠動脈バイパス手術を受けている。このように、患者さんの条件に合わせて通常手術からカテーテルまで明らかに選択肢が増えている。ただ弁としての機能を見ると、当然ながら通常手術による方が結果は優れており、カテーテルだとどうしても逆流が残るようだ。それでも、心臓病症状の重症度を測る指標で半分以上の患者さんが、運動時の息切れ程度の所まで回復しており、高齢者でも弁置換術の効果ははっきりしている。これまでの臨床結果とも比較されている。90歳以上の通常弁置換手術の術後30日以内の死亡率は、今回は6%だったが、それ以前は17%と言う報告があったようだ。同じようにカテーテルによる置換術でも他の施設から出された論文より成績は良さそうだ。さすがメイヨークリニックと賞賛を送りたい。一方患者側から見ると、手術をするときはやはり病院を選ぶ必要のある事がわかる。是非、各病院に年齢別の手術成績を開示してくれる事をお願いしたい。幸いこの論文の筆頭著者は村下さんと言う日本人だ。もしメイヨークリニックでのコツ等があれば、我が国にも広めて欲しい。またTAVRも更に改良される事が十分期待できる。論文を読んでほっと安心した。
10月31日:90を過ぎても大動脈弁置換は可能(Annals Thoracic Surgery誌オンライン版掲載論文)
2014年10月31日
カテゴリ:論文ウォッチ