特に意図しないで神経系と免疫系の直接的相互作用の話が2日続いてしまったが、神経系の影響が強い炎症性疾患と考えると、喘息がすぐ思い浮かぶ。無論喘息の原因は、気道でのアレルゲンによる免疫反応だが、様々な精神的要因で発作が変化することがよく知られている。
今日紹介するハーバード大学からの論文は神経ペプチドニューロメデュリンU(NMU)が肺の炎症増強因子として自然免疫に関わるILC2細胞を刺激していることを示した論文で9月21日号のNatureに掲載された。タイトルは「The neuropeptide NMU amplifies ILC2-driven allegic lung inflammation(ニューロペプチドNMUはILC2による肺のアレルギー性炎症を増強する)」だ。
これまでの研究で喘息など肺のアレルギー性免疫反応にIL-7受容体を発現しているがTでもBでもないILC2細胞が関わっていることがわかっている。この研究ではまずマウス気道をダニ抗原で刺激する系で、上皮由来のIL-25やIL-33により刺激された状態にし、そこに集まっている細胞の遺伝子発現プロファイルを、単一の細胞ごとに調べ、そのプロファイルから細胞の種類を特定し、さらにこのデータの中からアレルギーに関わるILC2細胞等で上昇している遺伝子を探索している。要するにビッグデータから各細胞で誘導される具体的分子を拾い出すという話だが、大変な実験と総合的能力が必要なのはよくわかる。
この結果神経ペプチドNMUに対する受容体NMUR1がILC2特異的に発現していることを突き止める。この結果はILC2と神経系が直接相互作用をしていることを示しており、実際感覚神経でNMUが発現しており、その発現はIL-13で増強されることが明らかにしている。
次に、試験管内でILC2を NMUで刺激する実験を行い、粘膜由来サイトカイン IL-25と組み合わせると強くT細胞を刺激することを示している。この粘膜と神経細胞の強調作用は実際の気道内ではもっと明確で、ダニ抗原に対するアレルギー反応系で、IL-25, NMUそれぞれ単独では強い炎症反応は起こらないが、両方同時に投与するとIL-5,IL-13が強く誘導され、その結果好酸球の浸潤が誘導されることを明らかにしている。
最後にNMUの作用メカニズムをお得意の遺伝子発現ビッグデータ解析を使って探索、NMUが ILC2の増殖とともにサイトカイン発現などの活性化を誘導することで炎症に関わることを示している。
ほとんど最初から最後まで、気道内での様々な刺激を受けた細胞の遺伝子発現プロファイルの探索にのみ焦点を当てた研究で、普通の免疫学者なら必ず行う各細胞の刺激実験などが省かれているため、最終的に評価が難しい。例えば、ではNMUノックアウトマウスでは炎症が防げるのかという話になると、代償的にT細胞が増殖して好酸球浸潤は正常マウスレベルになるようで、神経と免疫の相互作用は明らかになっても、NMUが治療標的になるかなど肝心なところが不明なままだ。とはいえ、喘息に神経要因が影響しやすいことの一端はわかった気がするし、またNMUは気道収縮に関わるので、これを抑えることでついでに免疫反応も抑えられるなら、一石二鳥かもしれない。それでも次は臨床への可能性を示してくれないと、論文のための論文で終わる気がする。
歳をとると、どうしても代謝が落ち太り気味になる。食べるのをやめればいいのだが、老い先短い人生、できるだけ節制をしたくないのが本音だ。また、90を過ぎた母を見ていると、結局超高齢になると、いやでも体脂肪が減ってしまうのがわかる。今のうちにある程度は溜め込んでいたほうがいいのではとも思う。いずれにせよ、年齢とともに太る原因のほとんどは、代謝が落ちることだと思っていた。
今日紹介するエール大学からの論文は、高齢に伴う炎症性のマクロファージの活性化が脂肪の燃焼を抑えることも肥満の原因になることを示した論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Inflammasome-driven catecholamine catabolism in macrophages blunts lipolysis during ageing(インフラマソームにより駆動されるマクロファージ内でのカテコーラミンの分解が老化に伴い脂肪分解を抑える)」だ。
この研究ではまず、絶食によりカテコーラミンの作用で上昇するグリセロールや遊離脂肪酸が、老化により低下する原因が、脂肪組織に存在するマクロファージによる交感神経からのカテコーラミンの分解によることを明らかにする。これは、脂肪組織に存在するマクロファージだけに見られる活性で、他の組織では脂肪組織での脂肪燃焼を抑える働きはない。そこで、老化マウスの脂肪組織のマクロファージの遺伝子発現を調べ、炎症を誘導するNod-like受容体が活性化され、その結果カテコーラミンの分解が促進し、脂肪分解が抑えられること、そしてNod-like受容体が欠損したマウスでは、老化しても脂肪燃焼が正常に起こることを明らかにしている。
次に、マクロファージの炎症性の活性化が脂肪分解を抑制するメカニズムを探り、TGFβファミリー分子GDF3の分泌が高まり、これが脂肪組織に働いて脂肪分解を抑制するとともに、マクロファージにも働いて炎症性の刺激を高める2重効果があることを突き止めている。
最後に、マクロファージによりカテコーラミンの分解が高まることが、脂肪分解を抑えるなら、カテコーラミンを分泌する交感神経とマクロファージは密接な相互作用をしているのではと、脂肪組織でのマクロファージの分布を調べると、期待どおり交感神経に接して存在して、神経により分泌されるカテコーラミンの量を調節している可能性を示している。
以上の結果に基づき、老化マウスでもカテコーラミンの分解を阻害すると、脂肪の燃焼が正常化することも示している。
この論文を読んで、確かに脂肪分解が老化とともに低下している理由の一つが理解できた。老化に関わる慢性炎症の役割もよくわかった。ただ、脂肪分解を抑えるのがいいのか悪いのかは早々に結論できない。ひょっとしたら、老化にともないいつかは失う貯蔵脂肪を守ってくれているのかもしれない。
最後に、昨日の炎症サイトカインが直接神経に働く話に続いて、今日は炎症性細胞が直接交感神経の機能を抑制するという話で、ともに神経と免疫細胞の密接な相互作用を示す研究だった。