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10月11日:ネアンデルタール人に赤毛はいない(10月5日号The American Journal of Human Genetics掲載論文)

2017年10月11日
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ついこの前まで、ネアンデルタール人というと大柄で、色黒で、黒い髪の毛を持ったいかつい人間として描かれていた。また、同じイメージは多くの博物館で展示されていた。しかし、ペーボさんたちのゲノム解析はこのイメージを一変させ、今では色白で金髪、青い目の人類として描かれるようになっている。しかし多くのネアンデルタール人のゲノムが解読された現在でも、ネアンデルタール人が実際どのような特徴を持っていたのかを明確に述べることは難しい。これは、現在もなおゲノムから体の形や機能を再構成することが難しいことと、ネアンデルタール人も多様化しているからだ。従って特定の遺伝子の機能を知りたい時は、その遺伝子を持った生きた人間を調べるしか方法はない。

幸い、ネアンデルタール人の遺伝子の働きを生きた人間で調べる方法が存在する。それは、背の高さや、肌の色など一般的な人間の特徴と遺伝子を相関させる目的でこれまでデータが蓄積されてきたゲノムコホート研究データを、これまで一般的性質と相関がわかっている多型の中に、ネアンデルタールゲノム由来のものがないかという視点で見直し、私たちの持っているネアンデルタール人ゲノムの断片の表現を調べる手法だ。今日紹介するライプチッヒ進化人類学研究所からの論文は、この可能性を追求した研究で10月5日号のThe American Journal of Human Geneticsに掲載された。タイトルは「The contribution of Neanderthals to phenotypic variation in modern human(ネアンデルタール人の現代人への形質の多様性に対する貢献)」だ。

現在英国では、50万人規模で、病気などとともに、背の高さや体重、肌の色などの一般的身体形質、食習慣、行動、教育などの形質と相関するゲノム多型を調べるUK Biobankプロジェクトが進んでいる。このデータで、各形質と相関することがわかっている多型の中からネアンデルタールゲノム由来の多型を特定し、それが現人類の身体のどの特徴に対応するかを調べている。いわば、ネアンデルタール人のゲノム断片の作用を、現代人の体を借りて調べると言える研究だ。

ヨーロッパ人ゲノムの1.5-2%がネアンデルタール由来であることがわかっているが、136種類の形質と相関がわかっている多型のうち、6230がネアンデルタール人由来、439749が現代人類由来で、比率は大体同じだ。

方法の詳細は省くが、このうちネアンデルタール人由来のゲノムが表現されているとまちがいなく言える性質に、身長、座高、体脂肪率、安静時脈拍数などがある。面白いのは、ネアンデルタール遺伝子が関係している性質の多くが、皮膚や毛髪の色に関わる点だ。と言っても、ブロンド=ネアンデルタール遺伝子ではなく、ネアンデルタール人にも多くの多型があり、金髪から黒髪まで現代人の様々な多型にネアンデルタール人遺伝子が関わっている。ただ今回の研究から、現代の英国人に多い赤毛に関わる多型は、ネアンデルタール人のゲノムを探してもほとんど存在しないことから、ネアンデルタール人に赤毛は極端に珍しいことが結論できる。これ以外に、日焼けをほとんどしないという性質もネアンデルタール人遺伝子が強く関わることがわかった。

リストを全部説明するときりがないので、あとは省略するが、一つだけ面白い性質として、夜型の人に多い遺伝子多型がネアンデルタール人由来である点だ。しかも、この多型は緯度の高い地域ほど多くなる。すなわち、冬の夜が長い地域ほど、ネアンデルタール人の夜型多型が多いという話だ。ネアンデルタール人が暮らしていた地域から考えると納得の結果だ。

これまで、主に病気とネアンデルタール人由来の遺伝子との相関が調べられてきたが、この論文は身長や肌の色など、一般的な性質の違いに注目して、ネアンデルタール人とはどんな人だったかを明らかにしようとしている。結局現人類と同じで、ネアンデルタール人も色々ということが重要な結論になるが、とすると今後博物館で展示されるネアンデルタール人モデルがどう変わるのか、興味が有る。間違っているかもしれないが、アフリカから移動した現人類がネアンデルタールと出会って、様々な遺伝子が流入したとして、それ自身も小さな変異を起こしてきたとも考えられる。例え黒髪の人の毛色を決める遺伝子の一つがネアンデルタール由来だとしても、さらなる多型が起こった可能性は十分ある。ネアンデルタール人ゲノムが、現人類の中でどう変わったのも今後の面白い課題だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月10日:糖尿病をエクソゾームで治す?(10月5日号Cell掲載論文)

2017年10月10日
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他人のことを言える筋合いではないが、世界中で肥満が増加し、その結果2型糖尿病も増えている。この原因は、肥満により脂肪組織、肝臓、骨格筋の炎症状態がインシュリン抵抗性を誘導するからだと考えられ、様々な炎症誘導性エフェクターが特定されてきた。このインシュリン抵抗性を誘導する因子の中の変わり種として、マクロファージからエクソゾームの形で分泌されるマイクロRNAがある。私自身は、これまで理由なくマイクロRNAを認めるに抵抗感を持ってきたが、今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文で、マウスとはいえ痩せたマウスからのmiRNAでインシュリン抵抗性を改善できるのを見ると、正直期待が湧いてきた。論文のタイトルは「Adipose tissue macrophage-derived exosomal miRNAs can modulate in vivo and in vitro insulin sensitivity(脂肪組織マクロファージ由来のエクソゾームに含まれるmiRNAは生体内、生体外でインシュリン感受性を変化させる)」だ。

この研究では脂肪組織マクロファージ (ATM)を分離し、蛍光ラベルしたmiRNAを取り込ませた後、試験管内で蛍光ラベルmiRNAを含むエクソゾームが分泌されるか調べ、期待通り30-100nmの大きさのエクソゾームが分泌され、共培養した脂肪細胞に取り込まれることを確認している。

次に肥満マウスのATM由来エクソゾームを分離、それを正常マウスの静脈内に注射すると、耐糖能が低下、インシュリン抵抗性が誘導される。すなわち、インシュリンが効きにくくなっているが、これは肝臓や筋肉でインシュリンによって誘導されるリン酸化AKTの低下、PPARγの低下、そしてブドウ糖のトランスポーター GLUT4低下によると確認される。

このインシュリン抵抗性は、試験管内でも誘導することができる。この系を使って、miRNA合成を止めたATMのエクソゾームの活性を調べると、エクソゾームによるインシュリン抵抗性が消えるので、エクソゾーム中のmiRNAが活性の主役であることを確認している。

この話なら、まあこんなこともあるかと思って終わるのだが、この研究では次に痩せたマウスのATMからエクソゾームを調整し、今度は肥満マウスに注射して、なんと肥満によるインシュリン抵抗性が正常化することを示している。この発見がハイライトと言っていい。

以上の結果は、肥満マウスのATMと痩せマウスのATMは全く反対の作用を持ち、これが含まれるmiRNAの差によることを示している。そこで、肥満によりATMが発現するmiRNAがどう変化するかを調べると、肥満で上昇するmiRNAと痩せで上昇するmiRNAが見事に分かれ、肥満で上昇するmiRNAにはこれまで肥満との関係が示されていたmR155が含まれて、肥満マウスATMエクソゾームに多く含まれること、mR155によりインシュリン抵抗性が誘導されること、さらに痩せマウスのエクソゾーム注射でmR155が低下することを明らかにしている。

様々なmiRNAが変化しているのに、結局これまでわかっていたmR155の話に収束して、mR155がインシュリン抵抗性を誘導する張本人であると結論して終わっているのは残念だ。私を始め多くの人が興味を持つ、どうして痩せのmiRNAが肥満ATMのmR155を抑えインシュリン抵抗性を付与できるのは結局何も答えられていない。また、人間の肥満ATMでも同じことがいえるのかも知りたい。

腸内細菌を移植しても、エクソゾーム注射でもインシュリン抵抗性が改善するという話は、何か特殊な面からだけ人間の状態を判断している危惧を感じてしまう。まだまだ、論文のための論文で終わる心配は払拭できていない。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月9日:RNAのメチル化を神経幹細胞で止めてみたら?(11月2日号Cell掲載予定論文)

2017年10月9日
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mRNAのメチル化は古くから知られた現象だが、この過程に関わるメチル化酵素、脱メチル化酵素が明らかになり、それぞれの酵素の遺伝子操作により、mRNAメチル化の生物学的意義が急速に調べられるようになった。ただ、メチル化自体は、多くのRNAで起こり、一つの分子が欠失するような単純な異常ではないため、メチル化の障害による形質を完全に解析することは本当は困難なことが多い。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、発生時期の脳幹細胞でRNAメチル化酵素Mettl14をノックアウトしたら何が起こるかとりあえず調べてみたという研究で11月2日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Temporal control of mammalian cortical neurogenesis by m6A methylation(m6Aメチル化は哺乳動物の皮質神経形成の時間経過をコントロールする)」だ。

著者らが、最初からradial glia cell(RGC)として知られる幹細胞から皮質神経の時間コントロールを研究したかったのかどうかはよくわからないが、私たちの脳皮質の美しい層構造は、時間に合わせて順次細胞の増殖と移動を調節する事はよく知られている。従って、自分が興味を持つ分子が脳幹細胞にさえ発現しておれば、当然この系で影響を見たいと思う。実際、メチル化に関わる酵素Mettl14などの脳幹細胞での発現は高い。そこで、脳幹細胞だけでMettl14をノックアウトすると、マウスは生後25日前後で死亡することから、皮質の発生に何らかの役割を演じていることが確認された。

脳を調べてみると、幹細胞が存在する脳室周辺が拡大し、一方皮質表層部の分化細胞の形成が低下していること、そしてこれが幹細胞での細胞周期の遅れによることを発見している。はっきりしているのはここまでで、なぜ細胞周期が遅れるのかについては、メチル化ができなくなり、発生過程で決められた特定のRNAの寿命が長引いて、その結果細胞周期が遷延し、分化に必要な新しい転写が抑えられてしまうと結論している。すなわち、メチル化は発生過程で決まるmRNAに特異的で、これにより素早いRNA除去を行うことで、次の転写を促すという話になる。しかし、示されたデータから見ると、少し強引すぎる結論に思える。

おそらくこの話だけでは、論文は掲載されなかったのだろう。最後に、人間の脳皮質発生でメチル化されるRNAを調べ、同じように細胞周期や、幹細胞活性に関わるRNAが特異的にメチル化されていることを示すとともに、その中に統合失調症や自閉症スペクトラムの遺伝子が含まれていることを示している。

合わせ技一本で論文を通した感じだが、一つの遺伝子の異常で理解することが難しい統合失調症などが浮かび上がってきたことは、将来につながる結果かもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月8日:旧人類・現人類相関図(10月5日Scienceオンライン版掲載論文)

2017年10月8日
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ゲノム解読から有史以前の歴史を解明する研究が着々と進んでおり、2−10万年前に地球で暮らしていた我々の先祖である現人類(modern human, present day human)と旧人類(ネアンデルタール人や、デニソーワ人)で、少なくとも一部のゲノムが解読されたのは何十体にも及んでいると思う。しかしこの中で精度の高いゲノム解読となると、数は10分の1に減る。

同じゲノムを何回も繰り返して、しかも読み落としがないように解読することで、各ゲノムの比較精度が上がるだけでなく、両親から由来した各染色体を別々に再構成することが可能になり、昔から問題になっていた旧人類の近親相姦の程度や、あるいは集団のサイズなど、様々な情報が得られるようになる。従って、できるだけ保存状態のいい旧人類のDNAを探して高い精度でゲノム解読を行うことが地道に進められている。

今日紹介する論文はこの分野の創始者と言ってもいいドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のペーボさんの研究室からの研究で、クロアチアのVindijaから出土した5万年前のネアンデルタール人のゲノムを30回繰り返して読むのに相当する精度で解読している。論文のタイトルはズバリ「A high coverage Neandertal genome from Vindija cave in Croatia(クロアチアVindija洞窟で出土したネアンデルタール人ゲノムの高精度解読)」だ。

これまで生きている人間のゲノム解読と同じ精度で解読されたネアンデルタール人ゲノムはアルタイ出土(12万年前)及び、デニソーワ人が発見された洞窟から出土(7万年前)した2体に限られていた。この研究はこれにVindijaで発見された(5万年前)を加えたと言うだけの話と受け取られるかもしれないが、精度が高いゲノム解析数を増やすことの重要性がよくわかる重要な貢献だ。

まず、この目的のために、着実に方法の開発が進んでいる。この研究では、古代DNAでは避けられないDNA分子の修飾をカウントして、最も可能性の高い塩基を推定するソフトが開発されている。このようなソフトが可能になるのも、30coverageという精度で配列が読まれたおかげだ。

次に、30 coverageの精度は、両親由来の染色体を分別することを可能にする。この結果、対立染色体の類似性から、集団のサイズ、近親相姦の有無などを正確に決定することができる。特に、アルタイ出土のゲノムには、極めて長い重複が見つかり、近親相姦がネアンデルタール人の多様性を奪ったのではと騒がれた。今回、デニソーワ、Vindijaのゲノムが調べられ、確かに対立染色体同士の類似性は、現人類と比べると高いが、アルタイで見られたような長い領域の重複は発見されず、ネアンデルタールと近親相姦を結びつけることは間違っていることを明らかにしている。しかし、対立遺伝子の類似性は、交流のある集団サイズが大体3000人であることを示しており、この結果としてゲノムの多様性が低下していることになる。

次に、ヨーロッパに分布したネアンデルタール人誕生後の歴史も推定できる。結論を述べると、約40万年前に誕生したグループが、この3箇所に分布し、その過程で民族とも言える多様性が生まれたことがわかる。以上の結果は、ネアンデルタール人として十羽一絡げで論じることの危険を示唆しており、「ネアンデルタール人もいろいろ」と考えることの重要性を示している。

最後に、我々現代人が最も興味の有る、旧人類・現人類の交雑による相関関係だが、今回解読されたVindijaゲノムは最も現人類と似ている。すなわち交雑によるゲノム交流が進んだ結果だが、現人類から旧人類へのゲノム流入は、Vindijaとアルタイが分離する以前に限られたいる一方、旧人類から現人類への流入は決して珍しいことではなく普通に起こっていたのではと結論している。その結果、我々東アジア人ゲノムの2.3-2.6%はネアンデルタール由来になっている。

最後に、ではどんなネアンデルタール遺伝子が我々現人類ゲノムに残っているのかだが、これまでの自己免疫抑制、うつ病、光皮膚反応などに加えて、高コレステロール血症、内臓脂肪蓄積、ビタミンD欠乏、摂食障害、リュウマチ性関節炎、統合失調症、向精神薬に対する反応異常として発見されていたSNPが新たにネアンデルタール由来であることが明らかになった。

この分野をウオッチしていると、いずれもなかなか意味深の結果で面白いが、それについての解説は、またいつか。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月7日:染色体立体構造維持に関わるコヒーシンの役割(Natureオンライン版掲載論文)

2017年10月7日
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一般の人にはなかなか理解しにくい分野だと思うが、これまで何回も紹介してきたように、私たちのDNAは核内で全く規則性なく折畳まられるのではなく、きちっと大小の区分にまとめられて収納されている。もしこの区分が壊れると、染色体上での距離とは無関係に、極めて遠くにあるゲノム領域がもつれて関係のない遺伝子の近くに来てしまうことを防げない。その結果、各系列の細胞で厳しく制限される遺伝子発現が乱れ、細胞のアイデンティティーが失われる。この折りたたみを調節している主役が、CTCFとコヒーシンの2種類の分子で、以前紹介したようにCTCFが折りたたみの境界を定め、コヒーシンがDNAループの方向性を決めている。これが大きな枠組みだが、これらの分子の機能を欠損させた時細胞に何が起こるのかを調べ、詳細を詰める研究が最近加速している。

今日紹介するドイツ・ハイデルベルグにある欧州分子生物学研究所からの論文はコヒーシンを染色体にリクルートする分子を欠損させ、コヒーシンが働けなくした細胞で何が起こっているかを明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Two independent modes of chromatin organization revealed by cohesin removal(コヒーシンの除去実験によりクロマチンの構造化に関わる2種類の様式が明らかになった)」だ。

この研究ではコヒーシン自体を除去する代わりに(この分子は他にも多くの役割があり除去すると細胞が維持できない)コヒーシンと染色体の結合に必要なNipblをタモキシフェン注射で除去できるマウスを使っている。マウスが成長してからタモキシフェンを注射、肝臓を取り出して調べると、期待どおりコヒーシンは染色体から外れていることが生化学的に確認される。

この状況でTADと呼ばれる染色体立体区域の形成を調べると、期待通りTADがはっきりしなくなっている。ただ、もう一つの染色体区域、コンパートメント化についてはそのまま維持され、転写がオンの領域と、オフの領域の区別がされている。一方、TAD形成のもう一つの主役CTCFの結合は変化ない。

ここまではほぼ予想通りの結果だが、この研究ではコヒーシンが除去されるとループがクラッシュする代わりに、TADより小さな単位の立体構築が強調され、またon型にコンパートメント化されている領域が中断され、中途に短いoff型のコンパートメントが挿入されることを発見している。この結果の解釈は難しいが、著者らはTAD構造を維持する機構がなくなることで、よりヒストンなどのエピジェネティックマークに依存する折りたたみが行われるようになった結果だと考えている。

コヒーシン除去の転写に及ぼす影響も調べており、TAD内のエンハンサーが作用しにくくなること、あるいは他のTAD領域の転写に介入してしまう確率が上がることなどを示しているが、それでも肝臓のアイデンティティーが失われていないのは、出来上がった細胞の転写が何重もの安全機構をもっていることを示している。

以上が結果で、この分野の進展の早さに驚く。発生学や転写に興味を持つ場合、難しくともこの分野には常に注目しておく必要があるだろう。論文を読むごとに驚きの尽きない、深い分野であることがつくづくわかる。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月6日:人間により誘発された地震データベース(Seismological Research Lettersオンライン版掲載論文)

2017年10月6日
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私は地震についてはもちろん素人だが、大きな地震が人間の経済・軍事活動により誘発されるのではと言う懸念は常に頭の隅にある。例えば昨年、東日本大震災後の歪みにより、白頭山の噴火レベルが危険域に達してきたことをこのブログで紹介した(http://aasj.jp/news/watch/5160)。先日、北朝鮮が中朝国境に近いブンゲリで核実験を行った話を聞いた時、白頭山の噴火とその後の火山性地震を誘発するのではないかと、心配してしまった。ただ、これは決して私だけの懸念でなく、人為的要因で起こる地震については地震研究者も心配しているようだ。

今週号のNatureを読んでいる時、「Risk of human-triggered earthquakes laid out in biggest-ever database(これまで最大のデータベースにより人為的に誘発された地震の危険が示された)」というAlexandra Witzeさんのレポートが目に止まった。この記事は、人為的に誘発された地震のデータベースについて報告している英国Durham大学からの論文についてレポートしている。元の論文のタイトルは「HiQuake: The human induced earthquake database(人間により誘導された地震のデータベース:HiQuake)」で、Seismological Research Lettersオンライン版に掲載されている。

もともと人工地震で地質を調べることは珍しい話ではなく、人間の経済・軍事活動が地震を誘発することは昔から懸念されていたようだ。特に最近、シェールガス採掘などで大量の水を地中に注入し、また急速に抜く大規模な地殻操作が頻繁に行われるようになり、これが地震を誘発するのではと言う懸念が生まれ、その安全性を確認するためのデータベース構築の要求が高まっていた。

この要望を受けて、昨年オランダ最大の天然ガス田を運営するガス採掘会社の助成で英国のDurhamとNewcastle大学がマグニチュード1以上の人為的要因による地震のデータベースHiQuake構築を進め、今年の1月に一般公開できるところまでこぎつけた。データベースは一般に公開されており、ウェッブサイトで誰もが情報を得ることができる(http://inducedearthquakes.org/)ので、読者の皆さんが閲覧されればいいのだが、幾つか論文を読んだ上で補足をしておこう。

1) データベースに収載された地震で、人為的要因の関与程度は完全に科学的に特定されているわけではない。
2) それでも150年間に人為的要因が疑われる地震が700以上起こっおり、人為的要因としては鉱山事業、大規模ダム貯水、石油・ガス採掘で半分以上を占める。
3) ほとんどのケースで人的被害のない小さな地震で終わっているが、地中への水の注入により誘発されたM5.8の地震(2016)、大規模ダム貯水により誘発されたM7.9四川地震(2008)、そして地下水のくみ上げが誘発したと考えられるM7.8ネパール地震(2015)なども含まれており、大規模な地殻の操作は常に地震の危険と隣り合わせだ。
4) 我が国での地震についても22ケースがリストされているが、最も大きなものでM4程度で、大地震と言われるケースとの関係はこれまで特定できない。
などが言えるだろう。 素人の私だけでなく、プロの地震学者も人為的要因による地震を研究することの重要性を力説しているようで、少し安心した。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月6日:H4K20ヒストンメチル化とX染色体遺伝子発現(9月21日号Cell掲載論文)

2017年10月6日
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哺乳動物の場合、性決定にY染色体が関わっているが、ショウジョウバエや、線虫ではX染色体と、常染色体の比によって個体の性が決まる。詳細を飛ばしてザクッと言ってしまうと、普通はX染色体の数だけで性が決まる。このように最終的な性決定の仕組みは異なるが、これらの種共通の問題は、X染色体の数がオス、メスで違ってしまうことだ。そのため、X染色体上の遺伝子の発現を調節する仕組みをそれぞれの種は開発している。哺乳動物では、DNAのメチル化を利用して片方のX染色体全部の発現を抑えるX染色体不活化方法を取っているが、ショウジョウバエ、線虫などそれぞれメカニズムは異なっている。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、線虫でこの問題を研究する中で、新しいヒストン脱メチル化酵素DPY21を特定し、そのX染色体遺伝子発現量調節機能を明らかにした力作で、9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Dynamic control of X chromosome conformation and repression by a histone H4K20 demethylase(ヒストンH4K20脱メチル化によるX染色体構造と発現のダイナミックな調節)」だ。

線虫ではオスメスではなく、X染色体が2本の両性具有体と一本のオスに分かれており、両性具有体でX染色体の遺伝子発現を半分に低下させる必要がある。このメカニズムは詳しく研究されており、rexと呼ばれる場所を起点に多くの分子から構成されるDCC複合体が結合し、X染色体全体の転写を半分に抑えている。またこの時、X染色体特異的に20番目のリジンが一つだけメチル化されたH4ヒストンが染色体を覆うことがわかっている。ただ、これまでDCC複合体の中にヒストンのメチル化や、脱メチル化に関わる酵素は見つかっていなかった。

この研究では、DCC構成タンパク質の配列や構造を詳しく検討し、DPY-21がヒストン脱メチル化活性を持っているのではと着想し、期待どおりこの分子がH4K20にメチル基が2/3個付いたH4K20me2/3のメチル基を外してH4K20me1に変化させる活性があることを突き止める。

はっきり言って、この発見がこの研究の全てと言っていいだろう。あとはPY-21が実際に脱メチル化活性がX染色体の遺伝子発現調節に関わっていることを、酵素活性部位を失った遺伝子を導入した線虫を用いて調べている。結果を箇条書きにまとめると、

1) H4ヒストンのうちH4K20me1はX染色体上で、常染色体の2倍多く存在している。
2) このX染色体特異的変化は、すべてDPY-21の脱メチル化活性によっている。
3) このメカニズムは、200細胞期を超えた後、体細胞のみで働き、特に細胞周期の間期に働いている。
4) 脱メチル化活性がなくなると、X染色体上の遺伝子発現のみ上昇し、さらに普通はこの機構が働かないXが一本のオスで働くようにすると、遺伝子の発現が低下してオスは死んでしまう。
5) H4K20me1は染色体の3次元構造を調節して、エンハンサーとプロモーターの相互作用を変化させ、微妙な遺伝子発現調節を行っている。
6) 生殖細胞での遺伝子発現にも同じメカニズムがDCC非依存的に利用されている。

になるが、全てDPY-21がH4K20特異てき脱メチル化酵素であることの発見あっての結果だ。

この論文では、哺乳動物に存在する同じ活性を持った酵素も特定しており、哺乳動物でのH4K20me1の機能も明らかになると思うが、染色体の3次元構造を変化させて、インシュレーターの作用を調節するという魅力的活性があることから、急速に研究が進む予感がある。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月5日:強迫神経症(10月11日発行予定Neuron掲載論文)

2017年10月5日
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人間を使った脳研究紹介の最後は、人間でしか研究ができない課題を取り上げる。

統合失調症、鬱病、自閉症は、人間特有の高次機能の障害と言えるが、それでも症状の一部だけを抽出した動物モデルが存在し、研究に使われている。例えば、自閉症スペクトラムの特徴の一つ社会性の低下は、初めての個体と見合わせた時に一緒にいる時間を指標にマウスを用いた研究が行われており、特定の遺伝子が関わる自閉症については、動物モデルでも実際の状態をある程度反映できる。

しかし、動物モデルをほとんど思いつかない人間の行動も多い。その一つが強迫神経症だろう。強迫神経症の人は、自分の行動に合理性がないことをわかった上で、それでも例えば手洗いのような特定の行動を止めることができない。行動とその行動に対する自信が乖離してしまっていることがこの背景にあると考えられるが、これを行動学的にどう調べるのか面白い問題だ。

今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、行動とそれに対する自信を測定して、強迫神経症患者さんと、正常人の行動の違いを理解しようとした研究で10月11日発行のNeuronに掲載された。タイトルは「Compulsivity reveals a novel dissociation between action and confidence(強迫性は行動と自信の新しい乖離を明らかにした)」だ。

この研究では、中央の穴から出てくるボールの軌跡を予想して、キャッチする場所を指定するゲームで遊ぶ中で、一回ごとの予測にどの程度自信があるかを自己申告させることを課題として用い、強迫神経症患者さんと正常人を比べている。一見簡単そうだが、ボールの軌跡は、一定の時間がくると一定の規則に従い大きく変化するよう設計されており、それまでの結果を元に変化を分析することが要求される。この課題が最適かどうかよくわからないが、著者らはこれにより、予測に基づく行動と、それに対する自信を測定することができると考えている。

いずれにせよ課題は難しくなく簡単な実験かと思ってしまうが、実際のデータ処理にはモデリングを含む数理処理が多用されており、利用された数理処理方法はなんと8種類にも及んでいる。特に、ボールの軌跡の変化に、各個人がどのようなデータに基づき次の軌跡を推定し、またその決断にどの程度の自信を持っているのかの計算については、理解しづらい点が多かった。

このため結果についても、著者らの結論をそのまま鵜呑みにすることになるが、詳細を省いて結果をまとめると以下のようになる。
1) 正常の人と比べると、強迫神経症の人たちは、全経験に基づいて軌跡を予測するより、直前の経験にこだわった判断をする傾向がある。
2) 自分の判断に関する自信は脅迫神経症の人も正常人もほとんど変わらない。
3) 脅迫神経症の症状が重いほど、自信はあってもバタバタと判断基準を変化させる。
要するに、自信はあっても、その自信を信じられないような行動を取るのが脅迫神経症の患者さんと言える。

話はこれだけで、強迫観念については、その脳の構造や活動について調べる段階に至っていないことがわかる。しかし脳機能に進まないと、脅迫神経症の症状の記述を一つ増やしただけで終わってしまう。ただ論文を読んでも、この研究で開発された様々な指標が、脳機能と強迫観念を相関させる研究に役に立つのかよくわからなかった。

3日間人間の脳についての研究を紹介したが、推計学的方法があまりにも多用されており、どうも身近に感じられなかった。今後も人間の研究では同じ傾向が進んで、高度な数理が必要な学問になっていくのだろうか?個人的には、もう少し私たちの直感に訴えやすい方法が開発されることを願わざるをえない。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月4日:個々の記憶を関連づける(9月27日号Neuron掲載論文)

2017年10月4日
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記憶のメカニズムについては、エリック・カンデルのアメフラシを用いた研究を発端として、刺激を受けた個々の神経細胞が一種の分化を遂げ、シナプスを介する神経結合の特性を変化させることで、より反応性の高い神経細胞回路を形成し、次に同じ経路に入るシグナルに対する反応性が変化するというメカニズムが全ての動物で基本になっていることは広く認められている。実際、エピソード記憶のゲートになっている海馬では、毎日シナプスの形成、増強、消滅が常に起こっていることを、マウスでは観察することすらできる。私たち人間の脳でも同じことが起こっていると想像されるが、実際これを調べることは簡単でない。というのも、分子レベルの研究をはもとより、神経回路の変化を調べることすら人間では難しいからだ。このため研究は、脳の形態や活動を現象論的に調べ、その関係を数理的に推計することが中心になる。

昨日紹介した論文では、MRIを用いた解剖学的変化と、様々な様式の記憶能力との相関を調べ、顔の詳細な違いを弁別するには海馬の持続的発達が必要であることを示していた。このように、形態と機能のような、別々の特徴の比較するのはまだ易しい方だが、記憶の形成や呼び起こし過程で起こっている、脳細胞の刺激状態を人間で調べるのはさらに難しい課題になる。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、記憶の形成とその呼び起こし過程に関わる脳の活動を、機能的MRI(fMRI)を用いて調べた研究で、9月27日号のNeuronに掲載されている。タイトルは「Consolidation promotes the emergence of representational overlap in the hippocampus and medial prefrontal cortex (神経の連結強化により海馬と内側前頭前皮質のでの表象が重なる)」だ。

これまで、fMRI を用いた研究は、何か課題をこなしている間にどの部位が興奮するのかを調べることが主流だった。しかし、この研究では異なるアイテムの記憶形成と呼び起こし過程に関わる脳活動の類似性を調べるという難しい課題に挑戦している。

この研究では、示された様々なアイテムを覚え、覚えてすぐ、また一週間後にそれを思い出す一連の課題をこなす間にfMRIで脳活動を記録し、脳の活動パターンから記憶がどこに、どのように形成されるかを調べようとしている。これに用いた課題では、様々なアイテムを、都市、海岸、ジャングル、寝室の情景写真とともに提示して記憶させ、もう一度アイテムを見せて、どの情景と共に提示されたかを当てさせる。ボランティアになった大学生では、課題を記憶した直後は95%の正解率だが、一週間経つと54%に落ちる。それでも、間違いなく記憶が形成されており、あてずっぽうで答える場合よりはるかに高い正解率で答えられている。この時、幾つかのアイテムと共に提示する情景は例えばジャングルの写真のように重複させ、それ以外の情景にはアイテムが一つだけになるよう設計している。
課題の意図が分かりにくいかもしれないが、異なるアイテムの表象を重複して同じジャングルという情景の表象と連結させることで、脳内に既存のジャングルという回路にアイテムの表象が合体して記憶され、本来関係のないアイテムの記憶回路がつながって、脳の反応性が似てくることを期待している。

様々な領域で、各アイテムから情景を思い出す際の脳活動を記録すると、ジャングルという情景と連結させたアイテムを見て答える時のみ、異なるアイテムに対する反応パターンが似てくる。それも、記憶後すぐは全く似ていないのに、一週間後の記憶を呼び起こす時のみ、内側前頭皮質の反応が類似を示す。同じように、海馬の後方でも同じような類似が見られるが、前方では類似は見られない。この結果から、時間をかけて記憶が前頭皮質と海馬の一部に持続的回路として固定される過程で、それぞれのアイテムがジャングルという情景と連結されることがわかる。

次に、アイテムを記憶する時の反応と、思い出す時の反応の類似性を調べ、この場合は右側の海馬でのみ、情景とは関係なく、同じアイテムに対してだけ、記憶形成と呼び起こしの反応の類似が見られることを示している。また、この類似性も一週間後に記憶を呼び起こす時だけ見られ、ここのアイテムの表象が、海馬で安定に保持されていることがわかる。
最後に、記憶に関わる内側前頭皮質と海馬との連結性をそれぞれの領域のアイテムに対する反応の類似性から計算し、時間をかけて安定化された記憶が成立することに並行して連結性が高まっていることを示している。

かなり複雑な実験で、さらにfMRIや推計学的手法は理解し難い点も多いが、結論としては、アイテムに対応する表象が脳内に記憶として安定化される際、海馬の前方と後方に分離し、記憶が固定化する過程で海馬と前頭皮質の結合が高まることで、前頭皮質にすでに存在している情景の表象に関連付けられたネットワークと、後方のアイテムの表象の記憶が統合され、アイテムと情景が結びついた新しいネットワークが形成されると理解すればいいと思う。

この研究では同じ細胞が反応しているとか、どの回路が反応しているかは一切わからない。ともかく、人間で研究することの困難がひしひしと伝わってくるが、納得の結果で安心した。今、言語の発生について考えをまとめているが、大変参考になった。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月3日:子供の頃の記憶が正確でない理由(8月22日号米国アカデミー紀要掲載論文)

2017年10月3日
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人間特有の言語は言うに及ばず、意識など高次脳機能の研究に動物を使うことは、課題の設定に多くの困難を伴う。とはいえ、脳の操作は当然のこと、脳の活動を記録するという観点から見ても、人間を使った研究は簡単ではない。このため、光遺伝学などを用いた脳操作全盛時代、どうしても人間を使った研究はかすんでしまう。そこで、今日から3日間、操作が難しい人間の記憶についての研究がどのように行われているのかを知るため、最近読んだ論文を3編紹介したいと思う。

今日紹介するドイツマックスプランク生涯心理学研究所からの論文は8月22日出版された論文で少し古いが、記憶の発達と海馬の解剖学的発達の関係について調べた研究で米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Hippocampal maturity promotes memory distinctivenesss in childhood and adolescence(海馬の成熟は子供や青年の記憶の弁別性を促進する)」だ。

人間の研究ではまず脳を操作することは許されない。従って、この困難を観察と推計学を組み合わせて克服する。そのため、多くの人間からデータを取る必要がある。実際には、ボランティアを集めるのがおそらく最も難しい過程だろう。この研究では70人の6−14歳の児童、及び33人の18−27歳の若年成人を対象とし、MRIで海馬の解剖学的形態を詳しく分析し、年齢による発達を調べている。これまで様々な観察結果はあったようだが、今回の結果は海馬は年齢とともに発達し、例えば歯状回のように拡張する場所と、鈎状回のように縮小する場所に分かれる。ただ、これは傾向で、発達程度の個人差は大きく、個人的経験の違いなどの発達程度を反映していると考えられる。今後は領域間結合などを調べる必要がある。いずれにせよ傾向ははっきりしたので、すべての場所の形態を総合した、「発達度指標」を開発している。

次に、それぞれの被験者の記憶力について、連合記憶や弁別記憶など様々な記憶力を調べるテストを行い、それぞれの数値と、海馬の発達度指数との相関を調べている。結果は、顔などの小さな違いを弁別する能力は明らかに海馬の発達と相関するが、連合記憶や情報源記憶(source momoery)などの他の記憶能力とは相関しないことが分かった。

一方、同じような発達度指標を前頭前皮質について開発し、これと様々な記憶との相関を調べると、情報の出処についての記憶(情報源記憶)が強い相関を持つことを示している。

以上が結果で、海馬の発達は顔の分別など、小さな変化を分別した記憶に関わっており、一方情報がどこから来たかといった情報源記憶の発達には海馬ではなく前頭前皮質が関わっているという結論になる。分かりやすく言うと、子供の頃についての記憶はあっても、詳細は覚えていないのは、この弁別記憶が発達していないせいだという結論になる。実際には個人差が大きく、大きなばらつきのある点の集合から計算される相関と言える。今後は、より早い段階、病的な状態、さらにテンソルなどを用いた領域間の結合測定など、一歩づつ研究を進めていくことになるだろう。しかし、どんなに大変でも、人間を用いた研究なしに高次機能や病気を理解することはできない。今日紹介した論文は、記憶課題と、MRI検査は全く別に行われた研究だが、次回は課題と脳機能計測を同時に行った研究を紹介する。
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