DNMTは新たにDNAをメチル化する酵素だが、決して闇雲にメチル化するわけではない。そのため、どの領域を特異的にメチル化しているのか、そしてメチル化の結果何が起こるのかを各細胞レベルで明らかにする必要がある。中でも注目されているのが脳発達でのDNMT3aの役割で、生後の脳発達期に上昇し、CGではなくCAをメチル化することがわかっている。さらにこの分子を脳神経細胞特異的にノックアウトするとMECP2が欠損するRET症候群と似た症状を示すことから、脳発達に重要な役割を演じていると考えられている。
今日紹介するハーバード大学からの論文はDNMT3aの脳発達での機能に正面から取り組んだ力作で11月16日号のCellに掲載予定になっている。タイトルは「Early-life gene expression in neurons modulate lasting epigenetic states(発達初期の神経細胞での遺伝子発現は長期間続くエピジェネテイック状態を変化させる)」だ。
これまでの研究でDNMT3aの発現は生後の脳発達の初期に高いことがわかっているので、著者らはまず脳皮質や海馬でDNMT3aが結合しているゲノム領域を調べ、1)生後2週間目の脳でDNMT2aは広くゲノム領域に結合しているが、この結合は8週目になると低下していること、2)強い遺伝子発現に関わるプロモーターやエンハンサー領域、また逆に完全に発言が抑制されている領域にはほとんど結合がなく、低いレベルの転写が起こっている場所に結合していることを明らかにする。
次にDNMT3aが結合していた領域の成熟マウス脳でのDNAメチル化状態を調べると、結合部位に一致してCAのメチル化が進んで、結果遺伝子発発現が安定的に低下していることを見出す。
これらの結果から、発達期での神経刺激による変化を安定化する役割がDNMT3a依存性のCAメチル化にあるのではと考え、グルタメート受容体刺激実験を行い、刺激によりDNMT3a結合が低下すること、この低下が刺激により遺伝子発現が上昇する結果であることを明らかにする。
すなわち、刺激で上昇した遺伝子はDNMT3aの結合から免れ、CAメチル化が起こらず、長期的遺伝子発現の抑制が回避されることを示している。また、この刺激依存性のCAメチル化パターンの変化は、抑制性ニューロンと興奮性ニューロンでは異なる遺伝子で起こることから、発生初期にそれぞれの神経系の運命がCGメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな調節により決まった後、生後の刺激に応じて細胞ごとにさらに詳細な遺伝子発現のエピジェネティック調節のためにDNMT3aが働いていることを示している。そして最後に、比較的低い発現を示す遺伝子のCA領域にはMECP2遺伝子が結合してDNMT3aをガイドしていることも明らかにしている。
DNAメチル化の記憶や神経可塑性に関する機能だけでなく、MECP2欠損によるRETT症候群についても大変勉強になった論文だった。
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