今日紹介するドイツ中部のバート・ナウハイムのマックスプランク心肺研究センターからの論文はこの問題をしっかり問い直し、肺がんが肺高血圧の原因を作っていることを示した論文で11月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Lung cancer associated pulmonary hypertension: Role of microenvironmental inflammation based on tumor cell immune cell cross talk(肺がんに伴う肺高血圧:微小環境の炎症を基盤とするガン細胞と免疫細胞のクロストーク)」だ。
よく考えると、肺がんだからといって局所にとどまっているケースも多く、それでも呼吸困難を訴えるのは確かに不思議だ。この研究では、これが肺高血圧のせいではないかと考え、CT、エコー検査、カテーテル検査を用いて、肺がんの種類や、慢性閉塞性肺疾患併発などの条件を問わず約半分の患者さんが肺高血圧を示すことを確認している。また、肺がんの組織学的検索から、腫瘍に侵されていない部位でもほとんどの血管で血管壁の肥厚が起こり、小血管でも肥厚が確認される。これらの結果から、肺高血圧は肺全体の血管が肥厚し抵抗が増えることで起こると結論した。
次に、肺血管の変化が肺がんによって誘導されるのかどうか調べる目的で、様々な肺がんモデルを用いて、遺伝子導入による発生に時間がかかる発ガンモデルだけでなく、がん細胞の移植により短期間でガンを誘導しても、肺高血圧が誘導されることを確認している。すなわち、ガンが発生すること自体が肺高血圧の原因と特定された。
とは言え、組織学的には肺がん細胞が血管に詰まったり、あるいは血栓ができることで肺高血圧になっているわけではない。著者らは、肺がんの周りに見つかるリンパ球やマクロファージの浸潤に注目し、ガンにより炎症が誘導され、これが肺高血圧の原因ではないかと考えた。これを確認する目的で、正常マウスに肺高血圧を誘導できる肺がん細胞を免疫欠損マウスに注射し、ガンによる肺高血圧誘導に免疫系細胞が必要であることを確認している。
あとは、リンパ球/マクロファージ浸潤から血管壁肥厚までのカスケードを調べ、免疫細胞が発現する炎症性サイトカインが腫瘍細胞をNFκΒ依存的に刺激し、ケモカインやIL-8,GM-CSF分泌させ、これらが共同して血管内皮フォスフォジエステラーゼ5(PDE5)の発現を促進、その結果血管平滑筋が増殖することを示している。実際、PDE5阻害剤を投与すると、肺がんを注射したマウスの肺高血圧は是正されるので、今後この回路を標的に、ガンによる症状を抑えられる可能性は高いと結論している。
肺ガンなら呼吸困難が当たり前と思わず、治療可能な経路を明らかにした、もと呼吸器科医にとってては面白い仕事だと思う。この論文を読んで一つ気になるのが、肺ガンに対するチェックポイント治療だ。この治療が炎症自体を高めるなら、当然肺高血圧を悪化させることになる。その意味で、PDE5阻害剤との併用の効果など、調べることは多い。
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