もちろん薬価の決め方は複雑だ。我が国や、英国では国が薬価決定に強く介入するが、米国では国の介入を徹底的に排除する仕組みになっている。米国の薬価は自由競争で決まると思ってしまうが、国の介入がないというだけで話は簡単ではない。薬価は、まず薬剤の効果の高さ、次にクリニカルパスと言われる標準医療プロトコルに組み入れられるか、そして最近になってそれをさらにチェックし患者のケアの質を向上させるための組織ACOの意見などが関わって決まる。ただ、クリニカルパスは医師が決めるように思っていても、そのための費用など創薬企業の影響が必然的に大きくなることから、完全に自由競争と言えるのかも難しい。この疑いは、今日紹介するアトランタ・エモリー大学からの論文を読んでより強くなった。
タイトルは「Trajectories of injectable cancer drug costs after launch in the United State(米国で注射用抗がん剤の上梓後の価格変動)」でJournal of Clinical Oncology10月号に掲載されている。
米国の保健システムは複雑なので、この研究では企業保険に入っていない人を対象にするメディケアパートBに絞って、外来での点滴治療で使われる抗がん剤のうち、1996年から2012年に認可された新薬の価格の推移を8年近くにわたって追跡している。
結果は明瞭で、医師、患者さんからあまりにも値段が高すぎると批判が出たアフリベルセプトを除く全ての抗がん点滴薬の価格が、発売時点より増加し続けているという結果だ。この傾向は、他に方法がない進行癌に対する薬剤で著しく、ブレンツキシマブやトラスツマブなど抗体薬は上梓後2倍近くに跳ね上がっている。
この要因について、例えば競合薬の出現や、FDAからの様々な改善要求の有無、あるいは適用外の利用などを調べているが、影響があるようには見えない。すなわち、何の外的要因もなく上昇を続けている。競合薬が出ても上昇が続くのが当たり前で、例えば抗PD-1ニボルマブが競合薬として出現した後も、同じ会社で先に認可されていた抗CTLA4イピルムマブの価格は3割程度上昇している。
なぜこんなことになるのか結局よくわかないが、末期で選択肢のなくなった患者さんに対して効果がある場合は、強気で売れると解釈するしかないように思える。我が国の薬価決定は公定価格制度で、2年ごとの見直しがある。これが自由競争を阻害すると批判されているが、少なくとも公的介入を全て排除する米国型の自由競争よりはずっとマシと言えないだろうか。
とはいえ、創薬のインセンティブとは何かも含め、もう一度薬価の決め方、さらに新しい医療技術の開発の支援方法を議論する時が来たように思える。
カテゴリ:論文ウォッチ