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11月26日:筋肉細胞がプラナリア再生をガイドする(Natureオンライン版掲載論文)

2017年11月26日
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研究所の名前はそのミッションを表現する意味で重要だ。逆に、ミッションをぼかしたい時は、抽象的な名前にすればいい。また伝統的名称はイメージを正確に伝えるためにも重要だ。熊本大学、京都大学、理化学研究所で幾つかの研究所の設立に関わったが、例えば京都大学再生医学研究所の場合、計画段階から我が国初の「再生医学」研究所を目指した。ただ、教授の人選も決まり英語の名前をつける段になって、最も若い教授に選ばれた笹井さんの、英語名はもう少し抽象的な名前にしたいという意見を入れてFrontier Medical Sciencesに決まった。一方ミレニアムプロジェクトとして新しい再生医学研究所を計画して欲しいと頼まれた時、一緒に汗を流した相沢さんと再生に絞らず、発生学という伝統的生物科学と医学を結びつけたいと、発生・再生科学総合研究センターを設立した。さらに、英語名からは伝統的でわかり難いregenerationは取り去って、developmental biologyにしてしまった。名前のおかげだけではないが、おそらく新しい研究所としてはミッションを一般にも理解してもらい、業績面でも大成功を収めたと思う。この時発生学と医学が結びつくことを示すシンボルになったのが阿形さんの研究していたプラナリアで、ある時知り合いの証券会社の社長から、息子がプラナリアを飼いたがっているので、飼い方を教えて欲しいと電話を受けた時は、研究所が期待どおり認知されたと確信できた。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はそのプラナリアの再生についての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Orthogonal muscle fiberes have different instructive roles in planarian regeneration(直行して走る神経線維はプラナリアの再生に異なる指令を出している)」だ。

おそらく発生学という観点でみれば、この研究は古典的研究と言っていいだろう。最初は、プラナリアの体を縦横に走る筋肉の発生を調べる目的で、筋肉の発生に関わるMyoD遺伝子をRNAiで抑制したところ、縦に走る筋肉だけが消失、横に走る筋肉は影響されないことがわかった。プラナリアの素人の私から見ると、これ自体面白い現象だと思うが、プラナリアの名前が持つミッションに後押しされたのか、著者らは縦に走る筋肉を欠損すると、縦軸の再生ができなくなることに着目し、この研究を始めている。

プラナリアの再生は、まず切断部分の修復と多能性のネオブラストが集まり、細胞分化が始まる。この時、欠損が大きいと2日目ぐらいから体の構築が再生される。縦の筋肉が欠損したプラナリアの遺伝子発現を詳しく調べ、Wntシグナルを抑制するnotumとTGFβシグナルを抑制するフォリスタチン(fst)の発現が低下し、実際fst遺伝子の機能を抑えるとmyoD抑制と同じで再生が抑制されることを発見する。そして最終的に、これらの分子が、再生の後期のネオブラストの持続的供給に必須であることを示している。

他にも、再生シグナルカスケードについての実験を行ってはいるが、この先のレベル、例えば細胞学的レベルになると結局わからないまま、縦の筋肉がないと、fstによるアクチビン抑制が出来なくなり、細胞の供給が続かないという話で終わる。

その代わりに、横に走る筋肉にNkx1が必要であることを発見、横の筋肉が欠損するとどうなるか調べている。ただ、この解析は中途半端で、頭が二つできたりする個体が現れる例から、中心線が2本できると解釈している。縦に切ると、再生は起こり目が余分にできることが示されているが、メカニズムがはっきりしない。なぜ縦に切る実験をもっと数多く行っていないのかなど、まだまだという感がする。

結局縦横それぞれの筋肉が異なるメカニズムでネオブラストの維持を指令することはわかったが、これ以上の発展の道筋は伝わってこなかった。この分野も、そろそろ新しい視点が必要に思える。
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