8月9日 新型コロナウイルス感染とType I インターフェロン (8月7日号 Science  掲載論文)
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8月9日 新型コロナウイルス感染とType I インターフェロン (8月7日号 Science 掲載論文)

2020年8月9日
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新型コロナウイルス(Cov2)がコードする分子についての論文を読んでいると、Cov2が最も嫌う免疫機構がType Iインターフェロン(IFN-I)(= IFNα、IFNβ)ではないかと思う。すなわち、感染したホストがIFN-Iシグナルを動員しないように操作する仕組みを何重にも備えている。

このブログでも紹介したように、Cov2のコードするタンパク質のうちOrf6はimportinに結合してSTAT1の核内移行を妨げて、IFN-Iシグナルを抑える(https://aasj.jp/news/watch/12749)。イベルメクチンはOrf6のインポーチン結合を阻害してIFN-I誘導を回復させるから、抗ウイルス薬として使える。さらに、PLproプロテアーゼはIRF3からISG15を引き剥がして、IFNβが誘導されるのを防ぐ(https://aasj.jp/news/watch/13619)。重要なことはISG15自体、IFN-I/STAT1により誘導され、Orf6にも間接的に関わることから、Cov2はIFN-Iシグナルを抑え、加えてIFN-Iの誘導自体も抑える仕組みを持っていると言える。このブログでは紹介していないが、これに加えてウイルスRNAのCapメチル化を通して、侵入したばかりのウイルスRNA が自然免疫系に感知できないようにするメカニズムも持っている。

もちろんこれらの仕組みは、感染したウイルス量依存的で、ある意味で自然免疫とウイルス感染量とのせめぎ合いで、自然免疫を強く抑制できると、自然免疫の方が低下して、多くのウイルスが分泌され、結果重症化していくというシナリオが考えられる。

前置きが長くなったが、この仕組みが実際の患者さんで働いていることを強く示唆する臨床データがパリ大学から8月7日号のScienceに掲載された。タイトルは「Impaired type I interferon activity and inflammatory responses in severe COVID-19 patients (重症Covid-19患者さんで見られるtypeIインターフェロンの活性と炎症反応)」だ。

この研究の目的はcovid-19重症化をいち早く予想する指標を確立することで、発症後10日目で患者さんを、軽症、重症、重篤の3ステージにわけ、血液を採取、CyToFと呼ばれる、質量分析器とフローサイトメーターを組み合わせた方法で単一血液細胞レベルで発現タンパク質を詳しく調べて、以下の所見を明らかにしている。

  • これまで指摘されているように、リンパ球の現象が重症・重篤症例で著明に見られるが、様々な解析から、T細胞でアポトーシスが高まることを反映している。
  • 他にも、重篤者で特にNK細胞の減少が著しいが、逆にB細胞は増えている。
  • すべての白血球を集めて遺伝子発現を調べ、自然炎症に関わる遺伝子発現と、IFNに関わる遺伝子発現で主成分解析を行うと、発症10日目の段階で、軽症、重症、重篤の3群を完全に分離できる。
  • この解析から、IFN-Iに対する反応が高い患者さんは軽傷で、逆に低い患者さんは重症化することがわかる。また、IFN-Iシグナルが低下しているグループでは血中のウイルス量が減少しない。ただ、試験管内でIFN-I刺激を行うと、重症か患者さんの細胞も反応できることから、IFN-I刺激自体が低下していることを示す。
  • 血中のIFN-I が重篤者では強く抑制されている一方、IL6やTNF αのような炎症性サイトカインは上昇している。

この論文では、ウイルスのIFN-I抑制機能についてはまったく言及していないが、結果の多くは最初に述べたシナリオに合致しており、Cov2が肺に感染した時、IFN-I を首尾よく抑えきれた時、ウイルスから見れば増殖し続けられ、患者さんから見れば重症化することを示している。

では、なぜIFN-Iは抑えても、IL-6 やTNFαが上昇するのか?もしCap-メチル化でウイルスRNAがステルス化するとしたら、サイトカインストームも抑えられても良さそうだ。おそらく血管内皮や血球系に感染がおこると、NFκβ経路がより強く反応してしまう可能性もあるが、今後細胞レベルで詳しく検討が必要だろう。昨日述べたように、自然炎症に関わるHDAC3の2面性も関係しているように感じる。

いずれにせよ、肺炎の段階でCov2の最も嫌うIFN-Iを吸入させる治療などは有効な治療になり得るような気がする。、

カテゴリ:論文ウォッチ