8月13日 オキシトシンの作用に必要な刺激依存性翻訳調節(8月13日号 Nature 掲載論文)
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8月13日 オキシトシンの作用に必要な刺激依存性翻訳調節(8月13日号 Nature 掲載論文)

2020年8月13日
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自閉症スペクトラム(ASD)に見られる高次の行動変化をマウスモデルで研究できるかどうか、昔から議論されている。しかし、人間のASDの中にもrare variantと呼ばれる直接異常につながる遺伝子変異が明らかになってきたこと、またモデル動物から何らかの治療のヒントが得られる可能性があることから、遺伝子操作によるモデルマウスはアクティブに利用されている。

モデル動物で研究する場合、行動変化の一致だけでASDと対応させるのは無理がある。そこでよく利用されるのがオキシトシンの効果で、ヒトASDでも短期的に行動異常を正常化させる効果が知られている。

今日紹介するバーゼル大学からの論文は、遺伝子変異、行動異常、オキシトシンの作用を結びつけるタンパク質翻訳システムの異常を明らかにした研究で8月13日号Natureに掲載された。タイトルは「Rescue of oxytocin response and social behaviour in a mouse model of autism(オキシトシンへの反応と社会行動をマウス自閉症モデルで治療する)」だ。

この研究で使われたモデルマウスはシナプス間の接着に関わるとされているニューロリギン3(Nlgn3)ノックアウトマウスで、人間のASDでも変異が見つかっている。マウスでは新しい事物に対して示す好奇心の低下が明確な症状として特定できる。この研究では、同じような好奇心の欠如が、オキシトシンの機能を阻害する化合物を投与することで起こること、そしてこの症状が、オキシトシンが作用する腹側被蓋野から側坐核へ投射するドーパミン神経で発現するNlgn3の作用でおこっていることを特定する。すなわち、Nlgn3変異、行動異常、オキシトシン、そしてそれに関わる神経回路が特定できたことになる。

この結果に基づいて、次にオキシトシンによる作用のメカニズムについて、Nlgn3ノックアウトによる発現タンパク質の変化を網羅的に調べ、mRNAの翻訳に関わる分子が大きく変化していることを突き止める。翻訳というのは細胞機能の核といえるので、本当にそんなことが起こっているのかメチオニンアナログの取り込みを脳スライス培養で行い、Nlgn3ノックアウトマウスの被蓋野では翻訳全体が亢進していることを発見する。さらに驚くことに、翻訳を調節しているエロンゲーション因子elF4Eのリン酸化を阻害して、elF4EがmRNAとより強固に結合させる働きをしているMNK1/2を阻害すると、翻訳レベルが低下し、その結果Nlgn3欠損マウスのオキシトシンに対する反応が正常化し、さらに新しいものへの好奇心が現れることを示している。

結果は以上で、そのまま人間に当てはめるのは危険だが、オキシトシンの作用の一つが被蓋野ドーパミン神経の翻訳を低下させる効果があることがわかる。この研究ではMNK1/2阻害剤がすでにガン治療の目的で治験が行われているので、少なくともNlgn3の変異のあるASDには使用可能であると示唆しているが、もし翻訳レベルを変化させるという治療が可能なら、画期的なことだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ