8月26日 制御性T細胞(Treg)機能を持ったCAR-T (8月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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8月26日 制御性T細胞(Treg)機能を持ったCAR-T (8月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年8月26日
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制御性T細胞はいうまでもなく、現阪大の坂口さんの発見で、わが国免疫学の貢献の中でも大きな発見だと思う。チェックポイント治療は免疫を増強する方向の操作だが、Tregの場合、自己免疫病や移植拒絶など免疫を抑える切り札としてri利用できるのではという大きな期待がある。しかし、私たちの体に存在するTregを自由に操作して治療を行う技術の開発は遅れている感が強い。

今日紹介するカナダBritish Colombia大学からの論文は生体内のTregを操作する代わりに、現在ガン治療で利用が進むchimera antigen receptor T細胞(CAR-T)技術をTregにも応用して、免疫抑制能を持つCAR-Tregを作って治療に使おうという発想の研究で、Tregの利用に道を開く可能性がある面白い研究だとお思った。タイトルは「Functional effects of chimeric antigen receptor co-receptor signaling domains in human regulatory T cells(キメラ抗原受容体と共受容体シグナルドメインのヒト制御性T細胞での機能)」で、8月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。

この研究の目的は、動物モデルでCAR-Tregを作成するために導入するキメラ抗原受容体の条件を決めることで、抗原認識のためにはHLA-A2、導入した細胞の識別のためにMyc-Tag、T細胞シグナルとしてCD3ζ、そしてTreg機能に関わると考えられる様々な共シグナル分子を持ったキメラ抗原遺伝子を作成し、これをヒトT細胞に導入している。

こうして作成したCAR-Tregを、マウスにヒト末梢白血球を移植しておこるGvH反応を抑制できるかどうか調べている。様々な共シグナル分子を調べているが、結局最もオーソドックスな野生型CD28分子をCD3ζの前に結合させたキメラ抗原受容体が最も高いGvH効果を示した。また、CD28-CAR-Tregは移植後7日までマウス体内で維持されることも確認している。

あとは、試験管内の刺激実験系を用いて本当にこうして作成したCAR-Tregが、これまで知られているTregの特徴を備えているかどうか詳しく検証している。様々な実験が行われているが、

  • CD28共シグナルはTreg分化と機能に関わるHeliosの維持に関わっており、他の共シグナルにはこの機能が存在しないこと。
  • CD28共シグナルにより、細胞周期と細胞代謝に関わる遺伝子セットが誘導されること。
  • 試験管内で樹状細胞の活性化を抑えることで、免疫抑制に関わること、

など、これまで知られているTregの作用メカニズムと合致しており、確かにCAR-Tregが作成可能であることを示す説得力のある結果だと思う。

この研究ではマウス体内でおこるヒトT細胞によるGvHという特殊な系で、HLA抗体が認識するのはヒトT細胞だけになるが、全身の細胞がHLAを発現している人間では、異なる抗原を探す必要がある。しかし、CAR-Tregが利用できると、臨床的に利用できるというだけでなく、Treg自体の理解にも大きく寄与するのではと期待できる。新しいTreg研究がCAR-Tから生まれる予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ