8月22日 セラミドが線維化を抑制する(8月19日 Science Translational Medicine 掲載論文)
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8月22日 セラミドが線維化を抑制する(8月19日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年8月22日
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一般的にセラミドというと、肌を乾燥から守るスキンケアに使われる脂質として知られていると思うが、医学的にはセラミドがもつシグナル伝達因子としての側面が最も重要で、研究が進んでいる。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、セラミドが肝臓の線維化を抑える作用メカニズムを明らかにした研究で8月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Targeting acid ceramidase inhibits YAP/TAZ signaling to reduce fibrosis in mice (アシッドセラミダーゼはYap/Tazシグナルを阻害しマウスで線維化を抑制する)」だ。

線維化には様々なシグナルが関わっているが、最近注目を集めているのがYap/Tazシグナルで、様々な臓器でこのシグナルをブロックすると線維化が抑えられることが知られている。

このグループはすでに、肝臓の星状細胞の活性を抑え線維化を抑制する化合物をスクリーニングして、セラミドが星状細胞の活性化を抑えることを見つけていた。この研究の最初の目的は、この現象の分子メカニズムを明らかにすることで、セラミドと培養した星状細胞の遺伝子発現から、セラミドによりYapの下流シグナルの発現が抑制されることを発見する。

Yapの不活性化は、LATS1/2と呼ばれる酵素によるリン酸化に続くプロテアソームでの分解によることが知られており、セラミド処理でYapの分解が促進することも確認している。この経路のトリガーについてはデータは示していないが、セラミドの蓄積が機械刺激となってHippo(MST1/2)を介してYapに伝わると考えているようだが、セラミドが分解された脂質がG共役受容体を介してシグナルとなる可能性もあると思う。

結局シグナルの解析はここで終わりで、あとはセラミドを分解するacid ceramidase阻害剤が肝臓での線維化を抑えるかどうかに絞って研究を進めている。

セラミダーゼ欠損=セラミドが蓄積するマウスでは、期待通り四塩化炭素や非アルコール性脂肪肝による肝硬変を抑えることができる。さらに、セラミダーゼの強豪阻害剤を用いると、同じように肝臓の線維化を抑えることができる。

そして最後に、人間の肝臓をスライスした培養システムを用いて、セラミダーゼを阻害することで線維化に関わるコラーゲンの誘導を止められること、さらにC型肝炎患者さんではセラミダーゼの発言多強くしていることを示している。

以上の結果は、セラミダーゼは将来脂肪肝などによる肝硬変の治療に使える可能性を示唆しており、NASHに限らず様々な肝硬変の治療として発展することを期待した。また、肝臓に限らず、Yap経路は一般的に線維芽細胞を活性化させ線維化を誘導するので、同じ治療法は他の線維化にも使えるのではと期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ