8月29日 メタボ改善のための新しい秘策(8月26日号 Science Translational Medicine 掲載論文
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8月29日 メタボ改善のための新しい秘策(8月26日号 Science Translational Medicine 掲載論文

2020年8月29日
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これまでの研究で褐色脂肪組織の熱生成を高めることで、代謝を改善し、肥満を防げることがわかっている。この熱生成を調節する核になっているのがアンカプラー分子と呼ばれるミトコンドリアのプロトン勾配を、ATP合成に使わずに、熱として発散するのを可能にする分子で、熱生成に最も関わるUCP1は褐色脂肪細胞にしか発現しない。ただ、長期間寒さにさらされるような状況では白色脂肪組織にもUCP1が発現した褐色脂肪細胞の性質が現れ、ベージュ脂肪組織と呼ばれている。

今日紹介するジョスリン糖尿病センターからの論文は、白色脂肪細胞でUCP1を強く誘導しベージュ化した後、それを移植することで全身の代謝を改善できないか調べた研究で、8月26日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「CRISPR-engineered human brown-like adipocytes prevent diet-induced obesity and ameliorate metabolic syndrome in mice (CRISPRによる遺伝子操作を行なった褐色様脂肪細胞は、マウスの食事による肥満を抑えメタボリックシンドロームを改善させる)」だ。

この研究ではヒト白色脂肪組織から樹立した細胞株のUCP1遺伝子をプロモーターにCas9で導かれた転写活性化分子で誘導できるよう遺伝子操作を行い、正常と比べてタンパク質レベルで20倍のUCP1が発現する細胞株を樹立している。この細胞をHUMBLEと名付けているが、HUMBLEは正常の褐色脂肪組織と同じような性質を持ち、しかも外部からの刺激なしにUCP1分子を強く発現している。また、ATPの代わりに熱が作られる状況に反応して、ミトコンドリアの増殖や機能が高まっている細胞にリプログラムされている。

この細胞をヌードマウス胸骨付近に移植すると、脂肪組織を形成し長期間維持できることがわかった。そしてなによりも移植されたマウス個体ではインシュリン分泌は変化がないものの、糖代謝が改善され、血中脂肪が低下、熱の生成が高まることが明らかになった。また、高脂肪食による肥満も強く抑えることができる。

個体での全ての効果を移植した細胞だけで説明できないので、ホスト側の脂肪がリプログラムされた可能性を調べ、移植した細胞から分泌される代謝物が体内の褐色脂肪組織を活性化させ、代謝改善に寄与することを示している。

最後にこの分泌因子について追求し、アルギニン代謝経路から合成されるNOが、赤血球により全身に運ばれ、局所褐色脂肪酸を活性化して代謝改善の方向に動員されることを示している。

もちろん同じ効果は厳しいトレーニングと食事制限により可能だと思うが、操作された自分の脂肪細胞を移植するだけでこれほどの効果が得られるなら、実際の臨床に用いられる日も近いような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ