11月10日 甘い誘惑の危険性(10月28日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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11月10日 甘い誘惑の危険性(10月28日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年11月10日
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昨年のちょうど今頃、Nature Communicationにちょっと面白い論文が古代ゲノム研究では先頭を走るコペンハーゲン大学から発表された。

5700年前のスカンジナビア狩猟採取民は、白樺の樹皮から抽出された一種のタールをチューインガムの様に噛んでいたことが知られている。このタールを遺跡から回収して、そこに存在するゲノムを調べることで、当時の口内細菌叢を知ることができる。この論文を読んでわかるのは、当時の口内細菌叢には、歯周病菌は存在するが、虫歯菌が存在しないことだ。すなわち、虫歯というのは甘いものを食べる様になった結果の、一種の文明病と言える。

今日紹介するテキサス・サウスウェスタン大学からの論文は、砂糖の甘い誘惑が腸内の細菌叢を通して、腸管を守る粘膜を減少させるという、単純だが恐ろしい話で、10月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Dietary simple sugars alter microbial ecology in the gut and promote colitis in mice (食事中の単純な糖は腸内細菌叢の生態系を変化させマウス腸炎を悪化させる)」だ。

研究自体は単純で、10%グルコース(一応甘いソフトドリンクを想定している)を7日間摂取させたあと、硫酸デキストラン投与による腸管上皮障害による腸炎がどう変化するか見て、グルコース投与により腸炎が悪化することをまず確認している。グルコースと比べると程度は少し改善するが、ショ糖や果糖を同程度食べさせた場合も、同じ様に硫酸デキストランによる腸炎が悪化する。

この変化が、免疫系炎症を介した変化でないことを確認したあと、砂糖単独の腸管への影響を調べ、砂糖自体は腸管上皮細胞に対してほとんど影響はないが、腸内細菌叢を変化させて、腸管上皮を覆う粘液層が減少してしまうことを明らかにする。

この砂糖摂取で変化した細菌叢を移植すると、同じ様に粘膜層の厚みが低下し、また砂糖投与による腸炎は抗生物質投与で改善することから、砂糖を摂取すると腸内でAkkermansia Muciniphilaなどの細菌を増加させることで、粘膜層形成が抑えられ、最終的に腸炎になりやすいと結論している。

話はこれだけの単純な結論だが、要するに虫歯と同じ様なことが腸内でも起こっていることになる。とはいえ、甘い誘惑には逆らい難い。

カテゴリ:論文ウォッチ