11月25日 サイトカインストームがなぜ危険か?(11月13日 Cell オンライン掲載論文)
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11月25日 サイトカインストームがなぜ危険か?(11月13日 Cell オンライン掲載論文)

2020年11月25日
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Covid-19だけでなく、ウイルス疾患の肺炎や重症化にサイトカインストームが関わることは明らかで、このサイトカインストームを抑えるための様々な薬剤が試されてきた。重症例の標準治療として効果が確認されているデキサメサゾンの効果の一部も、サイトカインストーム抑制によると考えていい。しかし、例えば期待されたIL-6抑制治療が期待ほど効果をあげなかったことから分かる様に、我々はサイトカインストームと診断をつけてわかった気になっていたが、本当はその本態について何もわかっていなかった様だ。特に、サイトカインストームがなぜ危険なのかについて、具体的に理解できていなかった。

今日紹介するメンフィスのSt.Jude小児病院からの論文は、サイトカインストームで上昇が見られる一つ一つのサイトカインの細胞死誘導効果を調べ、この活性と病態を相関させようとした研究で11月13日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Synergism of TNF-α and IFN-γ triggers inflammatory cell death, tissue damage, and mortality in SARS-CoV-2 infection and cytokine shock syndromes (TNFαとIFNγが共同して新型コロナウイルス感染時の炎症性の細胞死、組織障害、そしてサイトカインショック症候群の引き金を引く)」だ。

これまでの研究は、サイトカインストームで(CS)で上昇するサイトカインを抑制して症状が軽減するか調べる研究が中心だった。この研究では、サイトカインが致死的な炎症を起こすのは、誘導されたサイトカインが細胞死を誘導するからだと考え、直接症状との関わりを調べる代わりに、 CSで誘導される様々なサイトカインを組み合わせて骨髄由来マクロファージの細胞死を誘導できるか調べた。

その結果、CS で上昇する全てのサイトカインを混合したミックスは当然のことながら、その中のTNFαとIFNγの2種類だけを組み合わせたときにも同じ効果があり、また全部のミックスからこの2種類を抜いてしまうと、細胞死を誘導する効果が全くないことを発見する。また、実際の臨床例のデータベースでも、重症例では必ず両方のサイトカインが上昇していることを確認している。

この細胞レベルの結果が臨床症状と相関するか調べるため、マウスにTNFα、IFNγを注射する実験を行い両者を同時に注射したときだけマウスがショック死をおこすこと、また組織で多くの細胞の細胞死が誘導されていること、そして血小板減少、リンパ球減少、好中球上昇などの臨床指標も実際の例と一致することを明らかにする。

以上の結果から、CSにより炎症細胞の細胞死が誘導されることが組織障害の原因と考え、このサイトカインの組み合わせにより誘導される細胞死のタイプを調べ、アポトーシス、ピロトーシス、さらにはネクロプトーシスまで、複数のタイプの細胞死が誘導される、極めて恐ろしい組み合わせであることが明らかにされる。

最後に、遺伝子ノックアウトを丹念に調べ、2種類のサイトカインで刺激したときに強い細胞死ショックが起こるシグナル経路を調べ、予想通りJAK, STAT1, IRF1 が主要経路であることに加えて、なんとiNOS発現によるNO産生が下流の細胞死経路を活性化し、様々なタイプの細胞死を誘導、その結果ショック症状につながることを明らかにしている。

結果は以上で、マウスの実験とはいえ、これまで持っていたサイトカインストームの曖昧なイメージを刷新し、より明瞭なシナリオを提出した研究だと思う。すなわち、CSは細胞死を誘導するから強い肺炎及び全身症状を引き起こすという話で、経路が整理された結果様々な介入ポイントが示された。事実、JAK1/2阻害剤の効果が最近アカゲザル、人間のcovid-19感染で示されており、またTNFα阻害剤を使用中の患者さんがCovid-19に感染した場合重症化しないことも示されているので、この研究と矛盾はないが、まだ実際の臨床で両方のサイトカインが組み合わさってほとんどの病変が起こるというところまでは確認できていないと思う。この研究でも、両方のサイトカインを抑えて新型コロナウイルスを感染させる実験が行われているが、効果は完全ではないので、実際のCSはさらに役者が多いかもしれない。

個人的には、CSの主役にTNFα+IFNγが浮上したのとともに、NFκB経路に代わってiNOS、NO経路が主役に躍り出た点が印象深かった。また、TNFαは以前紹介した、自己免疫型の抗体産生に深く関わっていることから、この経路の治療可能性を大至急追求することは重要だと思う。

最後に、CSについて様々な介入手段が示されたのは大きいが、これをいかに迅速に臨床へ持ち込めばいいのか、医療機関や製薬会社をまとめて、効果を調べるためのしっかりした組織が必要な気がする。TNFαはもちろん、IFNγにもFDA承認の抗体薬が存在するが、どのぐらい増産して確保可能なのかまで計画できる組織が必要になる。公衆衛生学的介入が経済的な理由で簡単でなくなってきた現在、ワクチンとともに効果の高い標準治療の進化は鍵になる。早急に体制整備を進めてほしいと願っている。

カテゴリ:論文ウォッチ