11月21日 ウイルス感染過程を見る:一刻も早く新型コロナでも見たい(12月23日号 Cell 掲載予定論文)
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11月21日 ウイルス感染過程を見る:一刻も早く新型コロナでも見たい(12月23日号 Cell 掲載予定論文)

2020年11月21日
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新型コロナウイルスのようなプラス鎖RNA ウイルスは、細胞に入ると特殊なキャップ構造ですぐに翻訳が始まるようにできており、次の複製ステージに必要なタンパク質を合成する。このとき、助けてくれる味方は存在せず、細胞の中に情報を担うウイルスRNAだけが単独で存在することになる。頭で考えると、感染できても前途多難に思えるが、この最初の過程はほとんど単一分子の問題で、基本的には想像の世界だった。

今日紹介するオランダ ユトレヒト大学からの論文はウイルスの単一RNAからの翻訳された分子を一分子レベルで可視化し、ウイルスの細胞内での増殖過程を単一分子レベルで観察できるようにし、感染初期の様々な問題を解決したワクワクする論文で12月23日号Cellに掲載予定だ。タイトルは「Translation and Replication Dynamics of Single RNA Viruses (一本鎖RNAウイルスの転写と複製のダイナミックス)」。

以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/5290)、このグループは蛍光標識したラマの一本鎖抗体を細胞内で発現させ、タグづけされたタンパク質が翻訳されてくるのを単一分子レベルで観察するSun-Tagと呼ばれる技術を開発し、細胞内での翻訳過程をリアルタイムで観察する研究を続けている。まさにこの技術は、感染後最初に翻訳がすすむプラス鎖RNAウイルスの感染過程の可視化には最適で、今回はコクサッキーBウイルスを試験管内で感染させた後、ウイルスゲノムの複製が終了するプロセスをビデオで観察している。すべてのデータは新鮮で学ぶところが多かったが、特に印象に残った結果をまとめておく。

  1. まず、細胞質に侵入した一本のウイルスゲノムはかなりの効率(7割以上)でポリゾームを形成転写を始める能力がある。
  2. ウイルスゲノムの転写と複製は同時進行というより、どちらか一方へとスイッチオン・オフして調節される。最初の翻訳が始まらないと、もちろん複製も起こらないが、翻訳は複製が始まると、停止する。残念ながらこのスイッチの本体は特定できていないが、ゲノムの複製や、ウイルスタンパク質とは別に存在する。そのため、ウイルスタンパク質が十分準備ができていないと、次の複製段階が完全に終了できず、細胞はウイルス粒子を排出することなく死ぬ。
  3. 翻訳と転写のサイクルは、2回続く。最初は侵入したRNAの翻訳(phase1)、それに続く複製(phase2)、新たにできたプラス鎖の翻訳(phase 3)、そして複製(phase4)、そして新たな翻訳(phase5)。この時、複製がすすむphase2,4では翻訳は止まる。
  4. それぞれのサイクルは細胞によってまちまち。特にPhase1の期間は数分から数時間に及ぶ。この時、プロテアーゼで複製などに関わるタンパク質が用意されるので、常に治療のターゲットとなる。
  5. タンパク質が足りずに複製が止まると、もう一度翻訳のphase1に戻る。すなわち、初期の複製過程が最もセンシティブな時期で、ここを狙って治療を行うと効果が高そうだ。
  6. ウイルスの翻訳が始まると、すぐにホストのelF4Gが分解され、ホスト側の翻訳が抑えられる。ただ、ホストの翻訳の程度自体はウイルスの翻訳や複製には影響はなく、おそらくこの初期の翻訳抑制は、ホストの抗ウイルス反応を抑える目的がある。
  7. ウイルスタンパク質はインターフェロンにより誘導されるRNA分解酵素をはじめいくつかの分子を抑制して、自然免疫から逃れている。したがって、外部から1型インターフェロンを加えても、ウイルスを制御することは難しい。

他にも面白い話が示されているが、コロナウイルスを考える上では上記の結果が重要だと思う。

残念ながらコロナウイルスについての言及は全くない。事実、コロナウイルスは、エンテロウイルスの4倍ぐらいの大きさを持っており、さらに小胞体膜の再構成を通して、ウイルスの細胞内での動きが極めて複雑だと思う。しかし、Sun-Tagにより感染の初期過程を追跡する可能性は開けた。おそらくコロナウイルスでも準備が進んでいる思うが、エンテロウイルスでも見るということがこれほど重要であることがわかると、早く見てみたいと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ