11月14日  Covid-19感染予防の科学3題(11月9日  Nature オンライン掲載論文他)
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11月14日  Covid-19感染予防の科学3題(11月9日 Nature オンライン掲載論文他)

2020年11月14日
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Interim reportとはいえ、ワクチンの有効性が報告された。我が国では結果の解釈をめぐって議論がある様だが、新しい感染症と特定されてから11カ月でinterim reportが出たことを個人的には評価している。すなわち、その背後に強い科学が存在しているということで、それを伝えていくことが必要だ。並行して、新型コロナウイルス(Cov2)に対する人免疫反応に関する論文がひしめいてきたので、11月26日岡崎さんと論文ウォッチでまとめて報告することにする。代わりに今日は予防薬の観点から面白いと思った論文を紹介する。

現在我が国でも、急速に感染者数が増加してきた。経済優先にして人と人が集まると当然のことだが、このことを示す興味深い解析がNatureにオンライン掲載された。

なんと9800万人のスマフォデータについて、例えばレストラン、教会、病院などのポイントに集中する機会と時間を計算し、実際の感染者数増加との相関を見た研究で、どう人が動けば感染が拡大するかうまく解析できている。この解析によれば、一番危険なのはフルサービスのレストランでの会食で、他のカフェやホテル、フィットネスセンターなどと比べて5倍以上感染機会があることを示している。もちろんレストラン自体が危険なわけではなく、長時間滞在し、飲んで食べ、歓談することにより感染が起こることを示している。すなわち、会話時の飛沫が最も危険であることの裏返しだが、歯科医の治療を受ける際に推薦されている様に、洗浄液で口腔内のウイルスを不活化したあとレストランで食べるなどの工夫が必要かもしれない。ただ洗浄で味が損なわれれば難しい。アルコール度70前後のアブサンを口に含むのが私向きだが、まず手に入るか調べてみよう。

以上の結果は、感染しないだけでなく、感染ささない工夫の重要性を意味するが、感染初期の動態を解析するには動物モデルが必須になる。しかし適したモデル動物は少なく、手軽なマウスは受容体になるACE2との相性の違いか利用されにくい。そのため、マウスの上皮にヒトACE2を発現させたマウス作成し、これを簡便な動物モデルとして使うことが行われている。このマウスを使って感染初期過程について調べた研究がやはり11月9日Natureにオンライン掲載された。

ヒトACE2を発現させたマウスを用いた感染実験など、新しくも珍しくもないが、鼻に感染させたあとの初期過程に絞っている点で学ぶことも多かった。

まず何よりもウイルス感染は、最初の量が重要であることを再確認した。ウイルス感染単位を千単位、一万単位、十万単位で鼻から感染させると、10万単位感染させたマウスは全例死亡するが、千単位では全く死亡しない。そして、1万単位ではちょうど半分が10日程度で死亡するが、あとは回復する。しかも感染2日目から、肺には多くのウイルスが侵入しており、上気道が一体化していることがわかる。ただ、この結果を人間にそのまま当てはめるのは難しいと思う。というのも、ACE2の発現量は人間の場合、鼻粘膜上皮と比べて肺の上皮は低いため、おそらく拡大の速度は異なる可能性がある。

この研究が面白いと思ったもう一つの理由は、鼻粘膜に感染した場合、ウイルスは速やかに脳へ移行する可能性を示した点だ。この実験系では、Cov2はもっぱら上皮細胞のみに感染し、嗅細胞には感染を認めない。それでも、感染後6日で他の臓器より先に脳でウイルスが認められることには驚く。重症例での検討が中心だが、Covid-19感染により脳は異常が見られることが知られている。脳への伝搬に神経細胞は関与しないのかも含めて、詳しい解析が必要だと思う。

神経細胞には感染しないことを利用して、感染による嗅覚障害のメカニズムについて調べ、神経支持上皮細胞が失われるだけで、十分嗅覚障害が出ることを確認している。人間では、嗅細胞への感染を示すデータもあるが、おそらく初期の症状として見られる嗅覚障害は、神経細胞への感染は伴わない様に感じた。

この研究からわかるのは、初期の気道へのウイルス感染量を一桁減らすことで大きな効果があることを示している。もちろん、話す時間を一桁減らすこと、あるいは口内洗浄を繰り返すことでこれは可能かもしれない。ただ、ラマやラクダのH単鎖抗体を用いると、安くて有効な感染防御が可能だと主張する論文が11月5日、Scienceにやはりオンライン掲載された。

このHPでもラマのH単鎖抗体については何度も紹介してきたが、この抗体の利点はバクテリアや酵母で活性の高い抗体を産生できるので、価格を安く抑えることができる点だ。以前、抗体を発現する酵母を家畜に食べさせて腸炎を抑えるという論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/9968)、この技術をウイルス感染に必要なSタンパク阻害抗体作成に利用する話だ。我が国も含め、Cov2を中和するH単鎖抗体の論文は多く報告されているが、この研究では、トライマーにすることで、極めて高い中和活性を達成するとともに、なんと生産コストが安いだけでなく、凍らせても、凍結乾燥しても、さらには熱を加えても安定で、エアロゾルスプレーとして使える抗体へと進化させている。是非、食事の前に鼻にスプレーする製品を早く完成させて欲しい。

以上、感染が拡大しているが、感染防御の手段の開発も加速していることを伝えたい。

カテゴリ:論文ウォッチ