11月28日 CRISPR/Cas9による受精卵遺伝子操作が危険な理由(12月10日号 Cell 掲載論文)
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11月28日 CRISPR/Cas9による受精卵遺伝子操作が危険な理由(12月10日号 Cell 掲載論文)

2020年11月28日
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CRISPRテクノロジーの最も重要な点は、ガイドRNAによりゲノムやRNAの特定の場所にCas分子をリクルートできる点だ。しかし、一般的に遺伝子操作に使われるCas9はガイドRNAにより決められるDNA鎖に切れ込みを入れ、切断するだけで、その後の過程は細胞の持っている修復機構に完全に依存している。幸い、普通の細胞ではこの修復時(非相同組み換え修復とマイクロ相同組み換えによる)のゲノム側の変化が大きくなく、小さな欠失や挿入で止まるため、遺伝子ノックアウトや、場合によっては遺伝子機能復活も可能になる。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は普通の細胞での常識が受精卵では通用せず、大きな染色体変化がCas9により起こってしまうことを示した論文で12月10日号のCell に掲載された。タイトルは「Allele-Specific Chromosome Removal after Cas9 Cleavage in Human Embryos(Cas9によるDNA切断の後起こる対立遺伝子特異的染色体除去)」だ。

この研究では網膜色素変性症の原因遺伝子の変異部分をCRISPR/Cas9で特異的にカットし、そこに起こる小さな挿入や欠失により遺伝子の機能が復活するようデザインしている。このようなデザインができるところがCRISPR/Cas9の素晴らしいところで、この研究でもまず試験管内でES細胞を用いてこの遺伝子操作を行い、母親由来の正常遺伝子には全く影響を及ぼさず、なんと80%近い父親由来の突然変異部位が元に戻ることを明らかにしている。

次に、同じ方法をヒト受精時にガイドとCas9を注入する、例えば物議をかもした中国の遺伝子操作でも用いられた方法を使って遺伝子編集効率を確かめたところ、なんと分裂後に半分は正常だったのに、残りの半分は突然変異を持っている父親側の遺伝子が存在する6番目の染色体に大きな欠損が高率に起こることを発見する。2細胞期にそれぞれの細胞に同じようにガイドとCas9を注入する実験でも、できてくる胚で父親側の染色体で、遺伝子操作が成功した細胞から、6番染色体が大きく欠損した細胞まで、様々な細胞のモザイク が共存することを発見する。すなわち、正常の細胞と初期胚では、カットされた後の修復様式が全く異なっており、大きな染色体の欠失にまで至る場合があることが明らかになった。

受精卵の場合、カットされた修復は細胞周期と共に起こり相同型と非相同型の修復による遺伝子編集が胚でも見られるが、半分の切断部位はなぜか修復がうまく進まず切断されたまな時間が経過し、次の分裂が始まると、切断部位を含む大きな欠損につながることになる。

事実、ガイドを導入せず、標的のない状態でランダムにCas9による切断を入れると、胚の場合は様々な染色体の欠損が起こることも示している。

以上が結果で、実際には限られたヒト胚を用いて、得られる少ない細胞のゲノムを丹念に解析し、さらにそれぞれの細胞からES細胞を誘導して、Cas9の影響によるゲノム変化をより詳しく調べるなど、大変手のかかる実験で、よくここまでと頭が下がる仕事だ。

いずれにせよ、Cas9でそのまま切断するという戦略は決して受精卵に適応してはならないことがはっきりわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ