11月23日 新しいVCP変異から学べること(11月20日号 Science 掲載論文)
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11月23日 新しいVCP変異から学べること(11月20日号 Science 掲載論文)

2020年11月23日
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今もFDAが認可したアルツハイマー病 (AD)で起こる神経変性を止める薬剤はないが、引き金になるアミロイドβの発生を抑えたり、除去する薬剤、Tau分子の沈殿を抑える薬剤、そして神経炎症を抑えて病気の進行を遅らせる薬剤の開発が今も続いていると思う。ADの発症過程の複雑さを考えると、当然他にも様々な治療対象が存在すると思う。例えばAPOEなどは可能性があるが、どう介入できるのか明確ではない。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は家族性の前頭側頭葉型認知症の原因変異として特定されたValosin-containing protein(VCP)遺伝子の変異の解析から、アルツハイマー病治療のための新しい標的のヒントを示す面白い論文で、11月23日号Scienceに掲載された。タイトルは「Autosomal dominant VCP hypomorph mutation impairs disaggregation of PHF-tau(体染色体優性遺伝形式を示すVCP機能低下変異はPHF-tauの凝集分解を阻害する)」だ。

タイトルにあるVCPはATPを加水分解するATPaseの一つで、様々なタンパク質の安定化に関わる一種のシャペロン機能に関わる分子の一つだ。これまでこの分子の活性が高まる変異により、様々な組織の変性が起こるmultisystem proteinopathyと呼ばれる状態が起こることが知られていた。

この研究では、前頭皮質に病巣が限局している前頭側頭葉型認知症(FTD)が多発する家族のゲノムを調べ、これまで知られていなかったVCPの変異で起こることを発見する。そして、この変異による病気がmultisystem proteinopathyとは異なること、そして神経変性がTsuのフィラメント型凝集と関わることを発見し、VCPがTauの凝集に関わると考え、研究を進めている。

まず、今回発見されたVCP変異を、multisystem proteinopathy(MSP型)を誘導する変異を、酵素学的に調べるとMSP型ではATPase活性が2倍程度に上昇する一方、新しい変異は正常の30%に活性が落ちることがわかった。すなわち、この様なシャペロン機能に関わる酵素は、活性が高くても、低くても様々な以上が引き起こされることがわかった。

いずれにせよ、VCPの活性低下がTauの凝集を促進することがわかったので、TauとVCPとの相互作用を調べ、最終的にフィラメント化したTauがポリユビキチン化された後に働いて、Tauの凝集を溶かす働きがあることを確認する。すなわち、凝集Tauをユビキチン化して分解しようとする私たちの防御機能を助けていることが明らかになった。

最後に、この変異を誘導したマウスを作成し、Tauの凝集の分解が起こらず、Tauフィラメントが蓄積することを明らかにしている。

以上が結果で、Tauやアミロイドの変異とは全く独立に、VCPの機能が低下するとTauの凝集蓄積が進むことが明らかになり、今後一般的なアルツハイマー病でもこの分子の機能を調べることで、VCPへの介入を通してアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性が生まれたと言える。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ