11月12日 抗原特異的T細胞を標識する(11月12日号 Cell 掲載論文)
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11月12日 抗原特異的T細胞を標識する(11月12日号 Cell 掲載論文)

2020年11月12日
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免疫反応モニタリングの難しさは、元々極端に頻度の低い抗原特異的細胞の反応を見なければならない点だ。例えばツベルクリン反応を考えてみよう。私たちの世代は、何らかの形で結核菌やBCGの感染経験があるため、結核菌濾液から生成したPPDを注射されると、24時間で皮膚に発疹が現れる。すなわち、抗原特異的反応を24時間以内にモニターできることになる。しかし、私たちの体がPPD反応性T細胞で満たされているわけではなく、注射した抗原に特異的に反応するT細胞はあっても数個程度だろう(実際、一個の特異的T細胞が発疹を誘導できるという研究も見たことがある)。とすると、反応局所のT細胞のほとんどは、抗原に反応しないバイスタンダーと呼ばれるものだ。抗原がはっきりしないとき、その中から抗原特異的T細胞だけを取り出すための技術開発は重要だ。

今日紹介する米国スクリップス研究所からの論文は、糖転移酵素を用いて相互作用している細胞を標識して、抗原特異的T細胞を生成できないか調べた研究で、まだまだ実験モデル段階だが面白い方向性の研究だ。タイトルは「Detecting Tumor Antigen-Specific T Cells via Interaction-Dependent Fucosyl-Biotinylation (抗原特異的T細胞を相互作用依存的fucosyl-biotinylationを用いて検出する)」だ。

この研究のポイントはヘリコバクターの持つ強力なフコース転移酵素(FT)を、その酵素活性を利用してまず細胞上の糖タンパク質に結合させ、大体10時間ぐらいは安定に細胞表面上に維持されるFTを使って、今度はその細胞と相互作用する相手の細胞を標識する方法の開発に尽きる。

あとはこの方法で、抗原をロードされた樹状細胞と反応するT細胞を補足できるか、簡単な条件から始めて、徐々に実際のガン免疫反応の起こる条件に合わせて調べている。原理は一緒なので、最後の最も複雑な条件での実験だけを紹介すると以下の様になる。

メラノーマを移植してできた腫瘍組織をすりつぶして溶解物を調整、それを樹状細胞にロードしたあと、FTを樹状細胞表面に結合させる。次に、腫瘍組織に存在する細胞と、FTと腫瘍抗原がロードされた樹状細胞を今日培養し、そこにビオチン標識したフコースを加えると、FTを発現した細胞と、それと反応していたT細胞がビオチンでラベルされるため、ガン抗原をロードしたT細胞がビオチンで標識される。

この実験では、ガン抗原としてガンに発現させた卵白アルブミンを使ってわかりやすくした系にしており、抗原刺激により発現されるPD-1と組み合わせることで、卵白アルブミン由来ペプチドに対するCD8T細胞を精製することができ、また精製した細胞を移植すると、より強いガン抑制活性が見られることを明らかにしている。

他にも、精製TしたT細胞の遺伝子発現や、さらにはCD4ヘルパーT細胞も標識できるかなどについてもデータを示しているが、結論としては、ガン抗原特異的T細胞をある程度濃縮することは可能であることが示された。

実際の臨床現場で使うには、まだまだ改良や新しい方法と組み合わせることが必要だと思うが、遺伝子操作を用いずに特異的細胞を標識する方法は、今後の研究にとって貴重だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ