11月16日 プレシジョンメディシンは追求するに値するか?(10月26日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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11月16日 プレシジョンメディシンは追求するに値するか?(10月26日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2020年11月16日
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今回の新型コロナウイルス感染で露呈したが、我が国のゲノム医療レベルは先進国の中でもかなりレベルの低い位置に甘んじている様に思う。研究の方ではまだ頑張っているとは思うが、その応用になると十年は遅れている。例えば、我が国でもようやくガンゲノム医療が始まったと騒がれているが、特定の遺伝子をキャプチャーして配列を調べる対象の遺伝子が固定されているなど、診療する側の自由を縛るという方向で検査システム全体が決められている。例えば次世代シークエンサーを用いたエクソーム検査を利用したくても、検査の自由とクオリティーを保証する米国のCLIA基準がないため、研究者以外が次世代シークエンサーデータを使うことは難しいし、オンコパネル法でも、疾患ごとに対象遺伝子を変えることは難しい。

今日紹介する米国白血病リンパ腫協会からの論文は米国で進められている高齢者のAMLをゲノム情報に基づいて行う重要性を問うた治験研究で、米国でのガンゲノム治験の自由度について学ぶところが多いので、紹介することにした。タイトルは「Precision medicine treatment in acute myeloid leukemia using prospective genomic profiling: feasibility and preliminary efficacy of the Beat AML Master Trial(前向きのゲノムプロファイルを用いた急性骨髄性白血病のプレシジョンメディシンに基づく治療:Beat AML 基幹治験の実行可能性と予備的な有効性評価)」だ。

この研究の目的は、60歳以上の急性骨髄性白血病(AML)と診断された患者さん(平均年齢72歳)を対象に、ゲノム検査に基づく白血病治療の有効性を調べることだ。骨髄移植や幹細胞移植が普及してから、白血病の治療は根治へと大きく転換したが、骨髄移植に耐えられない高齢者の白血病に関しては、薬剤を用いる治療が中心になる。幸いこのHPでも紹介したアザシチジンとBcl2阻害剤を組み合わせる治験が終わり、かなり有効な標準治療の認可が近いと思うが、ガンのゲノムに基づくプレシジョンメディシンへの期待が最も高い分野だと思う。

この治験研究は骨髄細胞を吸引で採取してから1週間以内に、がん関連ゲノム配列決定を含むゲノム検査とその分析を終え、その結果に基づいて標的治療薬を決め、治療を行うプロトコルが実際に可能かを調べている。

我が国のオンコパネル検査は、がんセンターの資料によると1−2ヶ月検査に必要となっている。一方、この治験では組織診断とともに、我が国のオンコパネルで調べる113種類の遺伝子のなんと4倍、406遺伝子と、大きな変異を検出するための31遺伝子、さらには265遺伝子についての遺伝子発現まで行って、これを1週間で医師に返すフローを確立している。

最終的に参加施設により差は見られるが、各施設の達成率は90−100%で、これほどの迅速診断が可能であること見事に示した。ただ、7日というスピード診断にもかかわらず、この間に2.3%の方が亡くなり、8%の人は検査結果を待たずに治療開始を余儀なくされ、さらに10%近くの人は治療を諦めている。すなわち、高齢者のAMLの場合、1−2ヶ月で診断できますなどと悠長なことは言っておられないのだ。

ここまでして、ようやく57%の人が、標的治療薬治療へとたどり着け、残りの人は通常の治療方法に回されている。すなわち、この治験の最初のアウトカムとしては、現時点で約60%の高齢者AMLがプレシジョンメディシンを受けられるという結論になる。

そして、まだプレリミナリーな段階だが、標的薬を中心に治療を行った場合の方が50%生存率は13ヶ月対4ヶ月と大幅に異なる。また、一部の人は、ゲノム検査に基づき開発段階の治療を受け、この場合さらに成績は良い。

以上が結果で、

  • プレシジョンメディシンは生存期間を伸ばす点で有効性が期待できるが、高齢者AMLの場合、診断の迅速性が重要。
  • AMLの場合、利用できる標的治療薬が多く、また今後も増えていくため、プレシジョンメディシンを受けるチャンスは高くなる。

が示された。

しかし、このスピード感と自由度がなぜ我が国では可能でないのか、「努力しても結果は同じ」と嘯くことなく、是非真剣に考え、本当のガンゲノム診療実現に取り組んでほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ