1月6日 染色体リモデリングを標的にする抗がん剤の開発(12月22日 Nature オンライン掲載論文)
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1月6日 染色体リモデリングを標的にする抗がん剤の開発(12月22日 Nature オンライン掲載論文)

2022年1月6日
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多くのガンで、エンハンサーとプロモーターの相互作用をリモデリングして転写活性を高める仕組み、すなわちスーパーエンハンサー形成によりガンドライバー分子の発現を高める仕組みが働いている。これまで転写因子を標的にした薬剤の開発は、正常細胞の転写にも影響するため難しいとされてきたが、高いエンハンサー活性への依存性が高まっているガンについては十分可能性があると考えられるようになり、アセチル化ヒストン結合因子BRD4の阻害剤の開発などを皮切りに、開発が進んできた。

今日紹介するミシガン大学からの論文は、転写の本家本元とも言えるSWI/SNF複合体を標的にした薬剤開発の話で、12月22日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Targeting SWI/SNF ATPases in enhancer-addicted prostate cancer(エンハンサー中毒の前立腺ガンでSWI/SNF ATPaseを標的にする)」だ。

多くの分子が集まったSWI/SNF複合体(SSC)はATP 依存的にクロマチンをオープンに保って、転写因子が遺伝子にアクセスできるようにする重要な機構で、当然この複合体が形成できないと、染色体は閉じて、スーパーエンハンサーは崩壊する。この可能性を狙って、SSCの中のATPase(SMARCA2,SMARCA4など)を抑制する阻害剤の開発が行われている。この研究では、ATPase活性を標的にするのではなく、ATPaseのブロモドメインに結合して、そこにVHLプロテアーゼをリクルートして、ATPase分子そのものを分解する薬剤AU-15330を開発している。タンパク分解により転写因子を壊す薬剤として、骨髄腫治療に用いられるサリドマイド、レナリドマイドがあるが、AU-15330も同じ原理だ。

当然二つの分子に結合できる複雑な化合物で、薬剤として使うのは難しそうに見えるが、エンハンサー依存性が高い腫瘍の多く、特にアンドロゲン依存性の前立腺ガンの増殖を抑えることが分かった。

あとは、

  1. AU-15330処理により速やかに3万以上の場所でクロマチンが閉じる。
  2. その結果前立腺ガン増殖に必要なアンドロゲン受容体や、FOXA1の標的遺伝子への結合が抑制される。
  3. スーパーエンハンサー形成が抑えられ、エンハンサーとプロモーターの結合が消失する。

など、期待通りの効果が得られる一方、ガン増殖を抑制する濃度では、正常細胞にはほとんど影響がないことを確認している。

そして最後に、前立腺ガン細胞をマウスに移植する実験系で、AU-15330治療実験を行い、単独ではガン抑制効果は少ないが、アンドロゲン受容体阻害剤と組みあわせると、ガンの増殖をしっかり抑えることを示している。

以上が結果で、多くの場合ガンの増殖を完全に抑制できないこと、また実際には正常のクロマチンにも影響が有ることから、正直臨床に持って行くには、まだまだ高いハードルがあるように思える。しかし、SWI/SNFのような本家本元のクロマチン調節の仕組みが治療標的になったと言うことだけで、大きな前進だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ