1月21日 会話に関わる脳領域(1月5日  Nature オンライン掲載論文)
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1月21日 会話に関わる脳領域(1月5日  Nature オンライン掲載論文)

2022年1月21日
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言語を議論するとき最初に話す統計がある。地球上の哺乳類の総量は11億トンに達しているが、このうち、人間、家畜、ペットが占める重さは10.7億トンで、野生の哺乳類はたったの3300万トン(3%)にすぎない。しかし、1000年前にはこの関係は逆転していたという。これほど人類が繁栄した原因は、なんと言っても、おそらく5万年頃前にホモサピエンスが獲得した言葉を話し、会話する能力によっている。すなわち、現実かどうかに関わりなく、特定の内容を理解し合う、シンボル化された仮想現実を表象し伝える能力の獲得にある。

しかし、これほど重要な会話能力を支える脳の研究は難しい。というのも、会話を研究するためには、時間解像度の高い方法を用いて脳を解析し、まずどの領域が会話を支えるか特定する必要がある。このため、会話する脳の研究は、解析の時間解像度にとらわれない脳傷害の結果生じる失語症の研究から始まり、その後脳波や脳磁図を用いて会話中の脳の変化を記録し、会話に関わる脳ネットワークを特定する方向へ変わっていく。ただ、これらの方法は頭蓋の外から記録を行うため、どうしても空間解像度を犠牲にする。このギャップを埋めるため、脳外科手術中に電極で脳を直接記録することも行われてきたが、成果は限定的だった。

これを大きく変革したのが、かなり広い範囲をカバーできるクラスター電極(頭蓋内皮質脳波計)を脳内に設置した(てんかん巣診断のため)患者さんの了承を得て、時間および空間解像度の高い脳の活動情報を記録する方法の開発だ。(この進歩については明日テクノロジーの論文を紹介する)

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、この頭蓋内皮質脳波計(ECoG)を設置したてんかん患者さんについて、会話の重要なプロセスに関わる脳領域を、高い空間時間解像度で解析した研究で、1月5日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「A speech planning network for interactive language use(相互的言語使用時の発語を計画する脳ネットワーク)」だ。

会話は、まず相手の話を聞いて理解し、その中のキーになる単語をキャッチし、それに合わせて答えを計画、最後にそれを言葉として発語する過程からなっている。このとき、話の理解については、例えばN400反応のような概念などかなり詳しく解析されてきた(https://aasj.jp/news/watch/8178)。この研究では、理解しながら次の答えを計画する過程で働く脳領域を特定しようとしており、面白い課題を設計している。

The opposite of SOFT is what familiar word? とWhat familiar word is the opposite of SOFT? (答えはROUGH)の、質問の核(CIと呼んでいる)SOFTが前半、あるいは後半に来る文章を設計し、ROUGHという答えが出てくるまでの脳記録を行うと、CIを感知したあとから答えのプランニングが始まるので、このときの時間差を使って、CIに反応する脳領域を特定している。

実際CIが前半に来ると、答えのプランニングはすぐに始まり、答えるまで続く。一方、 後半にCIが来ると、答えを計画する領域は急速に立ち上がり、答えを発語するときにはすでに活動が低下する。いずれにせよ、この答えの計画に関わる領域はCIの1とは無関係に共通で有ることが分かる。また、発語に関わる領域は、計画中には全く反応しない。

この様に、3つのプロセスに特異的に活動する領域を特定することで、

1)答えを計画するプロセスは複雑なので、多くの領域が動員されると考えられているが、前頭側頭葉の特定の場所に限局したクラスターが明確に存在することが分かった。

2)特定のCIに対する答えを計画するときに活動する領域は、同じCIに対してジェスチャーや、表情で答える用にと言う命令に対しても活動するが、同じ言葉を繰り返したり、それを複数形に直したりせよという、言葉に関わる命令に対してはほぼ9割の一致率で活動する。すなわち、答えの計画は、様々な答え方のモダリティーに共通の領域と、言葉というモダリティーに特異的な領域が存在する。

3)このように課題型の会話と、自由な会話を比較することで、答えを計画する領域の活動が、相手の話を聞いているときから活動していること、そして活動する領域は明確なクラスターを形成することが分かった。

結果は以上で、本当に新しいという意味では、この論文は、相手の言葉に反応し得て答えを計画する過程を浮き上がらせる課題を設計し、認知、計画、発語に関わる領域を決定し、発語過程が古典的なBROCA領域だけではなく、答えの計画に関わる領域も含むことも明らかににした点にあるのだろう。実際、この領域の脳外科手術の結果、計画と、発語が完全に切り離されたapraxiaの患者さんが発見されており、この結果を支持している。

失語研究として習った過程が、本当に解明されていくのが分かるが、ネットワークのアルゴリズムとなると、次世代の課題になるのだろう。

カテゴリ:論文ウォッチ