1月12日 アルツハイマー病の進行速度を決める原因を求めて(1月5日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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1月12日 アルツハイマー病の進行速度を決める原因を求めて(1月5日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年1月12日
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アルツハイマー病(AD)の進行を決めるのが、細胞外へのアミロイドβの沈着と、細胞内でのTau分子の沈着の二要因であることは疑う人はいない。ただ、それぞれの病態への寄与、相互作用などについては分かっていないことが多い。従って、それぞれの要因と、病気の進展速度を相関させる臨床研究が重要になる。

今日紹介する米国クリーブランドのケースウェスタンリザーブ医大からの論文は、通常のADと比べて急速に進行するrapidly progressing AD(rpAD)と、一般的な徐々に進行するAD(spAD)の違いを、Tauタンパクの構造の違いから説明しようとした研究で1月5日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Distinct populations of highly potent TAU seed conformers in rapidly progressing Alzheimer’s disease(急速に進展するアルツハイマー病ではTauを増殖させる高いシード活性を持つ構造を持つ異なるTauが存在している)」だ。

この論文を読んでまず驚いたのが、病理的にも、遺伝的にもまだはっきり違いが認められないのに、病気の進行が6倍も速く、多くが3年で亡くなる一群の患者さん(rpAD)が存在することだ。病気の修飾に関わるApoEタイプのe4が、spADより少ないが、これも半分ぐらいで、全くないわけでは無い。

実際、rpADの進行はプリオン病に近く、またTauが構造変化により、プリオンのように同じ構造のTauを増殖させる可能性が示唆されていることから、おそらくTauが沈殿しやすい特殊構造をとることが、rpADの原因では無いかと着想し、亡くなった患者さんの海馬に沈着するTauの生化学的分析を行っている。

プリオンについて言えば、他のタンパク質をプリオンに変えてしまうシード構造はほぼ1種類しか無い。しかし、この研究の結論は、Tauについては、確かにプリオンと同じシード活性を持つ構造が存在して病気の進行を左右しているが、その活性は一つの構造に収束するのでは無く、少なくとも4種類以上の構造が、シード活性を持ち、病気の進行に関わるという結果だ。

このシード活性を持つ構造を特定するために、この研究では正常Tauでは折りたたまれて隠れている部位を認識する抗体、および構造変化により獲得されたタンパク分解酵素抵抗性を指標にして、rpADで特に上昇している分画を特定している。

これらの分画は、rpADだけで無く、spADでも存在しており、また経過とともに増加してくることから、AD自体が、Taunopathyと呼ばれる、特定の構造を持ったシードTauが、同じ構造のTauを増殖させることが背景になっていることを示している。

最後に、rpADとspADの違いを求めていくと、最終的に蔗糖密度勾配法で分画され、タンパク分解や塩化グアニジウム抵抗性で、4Rと呼ばれているスプライシング型由来のTauの量がこの差を決めていることを明らかにしている。

以上が結果で、ADがTaunopathyが関わること、さらに複数の分子構造がシード活性を持っているため、多様な病態が成立することが理解できる研究だと思う。しかし、AD治療にはまだまだ長い道が横たわっていることを実感した。

カテゴリ:論文ウォッチ