1月22日 より高機能の皮質脳波計測計の開発(1月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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1月22日 より高機能の皮質脳波計測計の開発(1月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年1月22日
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昨日紹介したように、人間の言語活動を支える脳活動を調べるためには、脳の広い範囲にわたって、高い時間空間解像度で、しかも異なる波長の活動を区別して測定することが必要だ。しかし、脳への障害を最小限に止めておく必要があるため、電極を刺し込むことは許されない。この目的には、手術中に機能的に運動野と感覚野を区別したり、あるいはてんかんの発生源を電気的に特定するために開発された皮質表面の電気活動を拾うことが出来る表面電極(ECoG)が使われる。

今日紹介するカリフォルニア大学・サンディエゴ校からの論文はこの技術を飛躍的に高め、さらに大きな領域を、さらに高い空間解像度で記録できるプラチナ・ナノロッドの開発で1月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Human brain mapping with multithousand-channel PtNRGrids resolves spatiotemporal dynamics(数千のチャンネルを持つプラチナナノグリッドによるヒトの脳のマッピングにより脳活動の空間時間ダイナミックスが明らかになる)」だ。

この研究のハイライトはあくまでもプラチナナノグリッド表面電極(PtNRG)の開発だが、材料工学については全くの素人なので、肝心なところの解説は省略せざるを得ない。ただ、頭蓋の外から脳波を測るために、心電図と同じように電極を頭の異なる場所に設置するのを想像してもらうと、1000−2000の電極を30µの間隔で設置することがいかに大変か理解できるだろう。

この研究では、これまで使われていたシリカの代わりに、ガラスを用いて薄く大きく、しかも高い解像度を持った表面電極を達成している。しかし、皮膚の表面に置く電極とは異なり、電極の間に体液を灌流できる穴が配置されており、一個一個のプラチナ電極には電線が接合されているなど、顕微鏡写真を見ると、いくらナノパターンの形成技術が進んだとはいえ、その精巧さに目を奪われる。

後はこれを用いて、神経活動を高い解像度で拾えるかが示されており、最初に行われたラットのヒゲに空気を吹きかける刺激実験では、ヒゲに対応するカラム構造が見事に浮き上がり、刺激後活動が伝播していることがキャッチできる。

もちろんこのようなデバイスは臨床応用を目的に開発される。この論文では、

1)脳外科手術時に、感覚野と運動野を正確に区別し、手術のプロトコル決定に使えるかどうか、

2)手の運動と感覚の神経活動をできるだけ正確に記録して、Brain-Machineインターフェースで、将来機能的義手に使えるか、

3)手術中にてんかん巣を正確に特定して、できるだけ小さな領域の切除でてんかんを抑えられるか、

などについて、これまでのECoGと比べて、飛躍的に高い機能が提供できることが示されている。

以上が結果で、新しいPtNRGを用いて高い空間解像度の記録が可能であることは分かったが、例えば昨日紹介したような研究に使えるようになるには時間がかかりそうだ。というのも、電極から測定器までのコネクターがこのままでは、手術中にしか使えない。今後、膨大な数の電線をまとめて頭蓋の外のコネクターに接合できないと、生活の中でのてんかん巣検出や、長期にわたる記録は難しい。ただ、おそらくこのような問題は解決されるだろう。その結果、例えば思い描いた文字を実際に書かせたり、発話したりと言ったbrain-machineてんかんに関しては、さらなる飛躍が期待できる。そしてこの方向での進歩が、人間の脳機能の理解の進展に直結する。

カテゴリ:論文ウォッチ