1月11日 スパインの興奮特性 (1月7日号 Science 掲載論文)
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1月11日 スパインの興奮特性 (1月7日号 Science 掲載論文)

2022年1月11日
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神経の樹状突起はスパインと呼ばれるとげのように突き出た突起で覆われており、これが興奮性シナプスを形成し、他の神経アクソンからのシグナルを受け取る。これまで紹介したように、一本の樹状突起上のスパインは、刺激に応じて独立した形態変化を起こせることから、それぞれが独立した興奮依存性生化学的ユニットを形成している。すなわち、神経細胞や樹状突起とは独立して、興奮への反応性を変化させる仕組みを持っている。とはいえ、細胞膜はつながった一つの細胞の一部なので、興奮伝達という電気生理学的観点から見たとき、どの程度独立しているのかは明確ではなかった。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、細胞膜での電位を測定するための色素を開発し、これを用いて樹状突起と個々のスパインの膜電位を測定し、スパインの独立性について調べた研究で、1月7日号Scienceに掲載された。タイトルは「Voltage compartmentalization in dendritic spines in vivo(樹状突起スパインの生体内での電位区画化)」だ。

この研究では、スタンフォード大学により開発されていた、膜電位により分子構造を変化させる脱リン酸化酵素を用いた電位センサーを、シナプス局在に関わる分子PSD95と結合するH鎖抗体ナノボディーと結合させたGEV1と呼ぶ遺伝子を開発している。このキメラ分子遺伝子を神経細胞に導入すると、細胞膜上のシナプスと同じ場所に発現し、樹状突起やスパインの局所的膜電位を、生きたマウスの脳内で測定することが出来る。

この方法で膜電位を測定しながら同時にパッチクランプ法で細胞の膜電位を測定すると、神経が刺激されたとき、個々のスパインや樹状突起膜上での膜電位の変化を測定することが出来る。神経が刺激されると、パッチクランプでは大きな活動電位(AP)と、それに続く神経全体に及ばない閾値以下の電位変化が観察される。同じ神経をGEV1センサーで測定すると、APはダイナミックレンジが狭いためか、キャッチできないが、それに続く閾値以下の反応や、APとは無関係の膜電位の変化を捉えることが出来る。

次に、この方法で神経全体の興奮とスパインの興奮の関係を調べると、APが発生するときには同じようにスパインも反応して、細胞全体で一つの反応ユニットであることが分かる。しかし、閾値以下の膜電位変化を記録すると、樹状突起とスパイン全体が連動した膜電位変化とともに、それぞれのスパイン独自の活動が見られることが分かる。

実際に末梢神経を刺激して脳内の興奮を調べると、樹状突起と連合したスパインの興奮回数は上昇するが、スパイン独自で起こる膜電位の変化は全く変わらず、それぞれが異なる機能を持っていることが示唆される。

最後に、光刺激で樹状突起を刺激したとき、個々のスパインを刺激したときの膜電位の変化を調べると、樹状突起を刺激したときには、樹状突起膜もそれにつながるスパイン膜もともに脱分極が見られる一方、スパインだけを刺激したときは、スパインから樹状突起へ興奮が減衰しながら局所的に伝わることを明らかにしている。この結果に基づき、スパインと樹状突起の電気結合モデルが示されているが割愛する。

結果は以上で、神経、樹状突起、スパインの興奮を個別に記録できたという点が重要で、今後このパターンの背景にある分子基盤、また電気ユニットとしてスパインが独立していることの機能的意義が研究されていくことになるだろう。しかし、何でも出来るようになってくるのには驚く。

カテゴリ:論文ウォッチ