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1月12日 くも膜下に存在する中皮に似た新しい膜構造の発見(1月6日号 Science 掲載論文)

2023年1月12日
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この HP を立ち上げてからも、解剖学的な新しい構造についての発見を紹介してきたが、中でも重要なのがリンパ管様の構造が脳に存在し、脳脊髄液の循環に関わるという発見だろう(https://aasj.jp/news/watch/608)(https://aasj.jp/news/watch/3542)。このおかげで、眠りの重要な機能が理解できるようになった。

今日紹介するコペンハーゲン大学からの論文は、脳のくも膜と軟膜の間に、中皮に似た新しい膜構造が存在することを発見した研究で、様々な病気を考える新しい視点を与える重要な研究になる。タイトルは「A mesothelium divides the subarachnoid space into functional compartments(中皮がくも膜下の空間を2つの機能的コンパートメントに分離する)」だ。

おそらくこのグループも脳のリンパシステムについて研究していたのだと思う。リンパ管のマーカーとして使われる Prospero 分子を標識したマウスの脳を詳しく調べる内に、硬膜、くも膜、そして軟膜と考えられてきた構造に、もう一つProspero 陽性約 1µm の厚さの膜構造 (SLYM) がくも膜と軟膜の間に存在することを発見した。すなわち、これまでくも膜下と呼んできた空間が、SLYM を挟んで外と内に分かれることがわかった。細胞学的には、リンパ管と同じ Prospero や Lyve1 を発現してはいるが、内臓を覆う中皮に似ていることがわかった。

解剖学が明らかになると、次はその機能を調べることになる。まず、様々な大きさの分子を硬膜下に注射してバリア機能について調べると、3kDa 以上の分子は内にも外にも通さないバリアになっていることがわかった。以上のことから、脳脊髄液循環も新しい目で見る必要がある。特に脳の内側から発生する蛋白質沈殿などのゴミの循環は SLYM の存在を基盤に考え直す必要がある。また脳障害後の修復過程も調べる必要がある。

もう一つ重要なのは、SLYM内に、多くの血液細胞が集積していることで、脳内に白血球が入る一種の前線基地になっている点だ。ここには、多核球だけでなくマクロファージや樹状細胞も存在する。また、LPS刺激でその数が増大する。

これは大きな分子が SLYM で脳側に入るのがブロックされていることを考えると極めて重要で、外来の抗原による免疫反応をこのスペースに限局することが出来る。一方、脳側から出来る分子が免疫を誘導することを防ぐ意味でも重要だと思う。多発性硬化症や脳老化も含めたさらなる研究が必要になる。

他にもくも膜にある静脈との関係など詳しい検討が行われており、脳内でのリンパ管の発見に匹敵する大きな発見で、新しい分野が開けたと思う。しかし、解剖学のインパクトは大きい。

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