この年になってくると、どこか関節が痛くなってくる。元気に歩けているので足の方は大丈夫だが、夫婦とも曲げるのが痛いか、もう曲がらない指がある。これらのほとんどは変形性関節症(osteoarthritis:OA)による症状で、70歳を超えるとまず半分以上はどこかに OA を抱えている。しかも現在なお、OA に対する薬物治療は開発できていない。
この課題にチャレンジしたオックスフォード大学からの論文は臨床研究のお手本のような研究で、12月21日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Variants in ALDH1A2 reveal an anti-inflammatory role for retinoic acid and a new class of disease-modifying drugs in osteoarthritis(ALDH1A2の多型がレチノイン酸の抗炎症効果を明らかにし、新しいタイプの変形性関節症治療薬の可能性を明らかにした)」だ。
この研究は、これまで指摘されていたレチノイン酸合成に関わる ALDH1A2遺伝子領域の多型が OA に相関することを確認した後、2種類の多型が ALDH1A2 の発現にどう影響しているのか、OA の痛みを軽減するために行われる指の手術 Trapeziectomy で得られた大菱形骨軟骨での遺伝子発現を調べ、OA のリスク多型は全て ALDH1A2 の低下を誘導することを確認する。
次に、ALDH1A2 が低下する影響を遺伝子発現を比べて探索すると、基本的には ALDH1A2 の発現が低い軟骨では炎症が高まっていることを確認する。
ALDH1A2 はレチノイン酸合成の鍵になる酵素なので、レチノイン酸濃度に変化があるか調べているが、テクニカルな問題で実現していない。ただ、ブタの関節損傷によりレチノイン酸の濃度が高まること、またその下流の分子の発現が高まることを確認できたので、ALDH1A2 低下はレチノイン酸の低下につながり、これにより炎症が長引くと結論している。
この考えをさらに確かめるため、レチノイン酸の分解を抑える talarozole を皮下に投与して関節損傷を誘導すると、炎症が抑えられること、またレチノイン酸の効果が PPARγ を介して作用していることを確認している。おそらく、レチノイン酸受容体と PPARγ の複合分子による転写が、炎症を抑えることを発見している。
最後に、talarozole 皮下投与で関節の機械的損傷後の炎症を抑えることが出来ること、また損傷後の OA の発症も抑えられることから、今後 OA の治療に talarozole が使える可能性を示している。
以上が結果で、レチノイン酸を投与するのと違い、talarozole 自体は分解を阻害するので、影響を局所にとどめられること、また既に薬剤として使われていることから、今後 OA治療に向けた治験が行われると期待できる。当たり前の病気ほど治療が難しい状況を変えられるか、期待したい。