今年期待される臨床治験でエーザイのアルツハイマー薬がランクインしていたことを1月6日に紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/21299)、まさにその日にレカネマブを FDA が承認したというニュースが飛び込んできて、世間も学会も騒がしいが、ほぼ同じ日、もう一つ注目の治験論文が The New England Journal of Medicine に報告された。これまで何度も紹介してきた G12C 型変異 K-ras の機能阻害薬 sotorasib を全身に転移があるステージIVの膵臓ガンをもつ38人の患者さんに投与した1/2相治験だ。
個人的な印象だが期待を裏切る結果で、1/2相なので効果判定は二の次とはいえ、38例中8人が、Partial response で、短期間でも complete response は見られていない。幸い、確実に薬剤のせいでおこった副作用は42%に程度で、今後より早いステージでの評価が必要だが、単独ではゲームチェンジャーにはならないようだ。Partial response 自体は効果を証明しているのだが、期待が大きい分落胆してしまった。
さて、関係ない話が続いたが今日紹介したいワシントン大学からの論文は、病院を悩ませているアシネトバクター感染症が、細胞内寄生菌再活性化の結果である可能性を示した研究で、1月11日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Catheterization of mice triggers resurgent urinary tract infection seeded by a bladder reservoir of Acinetobacter baumannii(マウスのカテーテル挿入により活性化される尿路感染症はアシネトバクターの膀胱内のリザバーに由来する)」だ。
アシネトバクター感染症は、導尿や人工呼吸器を留置した患者さんに多発する一種の院内感染症で、健康人の場合は身体が対応できるが、免疫機能の低下した患者さんでは命に関わる。
この研究では、これまで発表されたアシネトバクター感染についての論文を再検討し、健常人の2%でアシネトバクターが尿中に発見されるというレポートに注目し、遷延感染を起こしたアシネトバクターが、カテーテルや気管チューブによる炎症刺激で再活性化されるのではないかと着想し、マウス実験モデルを作成して可能性を探っている。
まず、正常マウス膀胱にアシネトバクターを感染させてもほとんどの場合免疫系で処理され急性で終わるが、TLR4 が欠損したマウスでは急性感染は抑えられても、その後長期にわたって細菌が尿中に検出できることを確認する。
こうして出来たモデルマウスにカテーテルを挿入すると、期待通りアシネトバクターによる尿路感染症が半数のマウスで誘発できること、また急性感染症が治癒した正常マウスでも9%のマウスで尿路感染症が発生することを明らかにしている。すなわち、TLR4 がないと遷延感染が起こりやすいが、正常マウスでも検出できないレベルで感染が維持されている可能性がある。
最後に、尿路上皮内にアシネトバクターが発見できるか調べると、TLR4 欠損マウスでは、急性感染症が治った後2ヶ月目でも細胞内のバクテリアを発見することが出来た。一方、正常マウスでも急性期に細菌の上皮への侵入が見られたものの、24時間後にはほとんど細胞内細菌を認めることは出来なかった。
以上が結果で、一つ一つの実験が少し中途半端な気がするが、細胞内感染をカテーテルや気管チューブ挿入が再活性化するというシナリオは、納得できた。しかし、ではどうしたら防げるのかということが明確でない。おそらく導尿や挿管による機械刺激を防いで再活性化を抑える方法についての研究がセットになって、この研究は完成するのだろう。