今日紹介するドレスデンにあるマックスプランク研究所の論文は、ハチドリだけがホバリング能力を獲得するようになった秘密にチャレンジした面白い研究で、1月13日号 Science に掲載された。タイトルは「Loss of a gluconeogenic muscle enzyme contributed to adaptive metabolic traits in hummingbirds(グルコース新生に関わる酵素欠損がハチドリの代謝適応力に寄与している)」だ。
まず自慢話と写真(SNSの定番)から始める。エクアドルはガラパゴス諸島だけでなく、本土も海抜0から4000mを越す山脈まで、実に多様な動物を見ることが出来る。中でも印象に残っているのがハチドリの仲間で、同じ場所で実に多様なハチドリを観察することが出来た。なかなかうまく写真が撮れないのだが、うまく撮れたほうのエメラルドハチドリとムラサキフタオハチドリの写真をまずお見せしたい。
さて、自慢はこれぐらいにして、本題に戻ろう。ミツスイを代表に、枝にとまって花の蜜を吸う鳥は数多く存在するのに、わざわざホバリングが進化したのは、ニッチの問題だと思うが、これには大きな筋肉能力の進化が必要になる。
この秘密を探るため、長い遺伝子配列を解読できる PacBio を用いてユミハシハチドリのゲノム配列を決定、既に解読されているハチドリのゲノムと合わせてハチドリ特異的ゲノム変化を探索する中で、まさにエネルギー代謝にドンピシャの遺伝子fructose bisphosphatase :FBP2)が全てのハチドリで欠損していることを発見する。
おそらく高校の生物で習うのではと思うが、ブドウ糖代謝を復習すると、グルコースをエネルギーとして使うときはブドウ糖をリン酸化し、その後果糖に代えて F6P を合成、それをいくつかのステップを経てピルビン酸に代え、ミトコンドリアの TCAサイクルに供給する。最初の入り口は、リン酸化を外す酵素も存在して、ブドウ糖を新たに合成出来るようになっているが、ブドウ糖新生に関わる酵素が一つかけたのがハチドリの特徴になる。この結果、当然ブドウ糖分解の方向に経路は傾いて、ブドウ糖をエネルギーとして消費するよう変化している。
この発見がこの研究のハイライトで、あとはウズラの筋肉細胞から FBP2 を欠損させると、ブドウ糖分解が亢進し、さらにはピルビン酸利用が高まるため、ミトコンドリアの数が増加することを明らかにしている。これに対応して、ミトコンドリア機能に関わる遺伝子発現が大きく再プログラムされていることも確認している。
これだけ多くの変化が起こるためには、FBP2欠損だけでは説明がつかないので、ハチドリへの進化過程で自然選択が起こったと考えられる遺伝子をリストしていくと、驚くなかれ、ブドウ糖分解に関わる4種類の遺伝子で、新しい変異が形成され、個々の変異の機能を調べると、他の鳥と比べて大きく活性が上がっていることを確認している。
以上が結果で、面白く楽しい研究だ。以前この研究所を訪問したとき、PacBio を買ったばかりで、これでモデル動物以外の進化を明らかにするのだという話を聞いたが、そのとおり実現していることにも感心した。