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3月6日 長く忘れ去られていた目の筋肉に目をつけたプロの目(3月1日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年3月6日
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大事な発見もあまり専門的な雑誌に発表されていると、ほとんど目にとまらず、忘れ去られることは珍しいことではない。時によっては、その現象が再発見されても、最初の発見者が忘れ去られたままになることもある。

今日紹介するパリ・クレティユ大学からの論文は、この忘れ去られていた大事な発見に目をとめ、プロの目で、ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーの治療可能性を明らかにした論文で、3月1日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Thyroid-stimulating hormone receptor signaling restores skeletal muscle stem cell regeneration in rats with muscular dystrophy(甲状腺刺激ホルモン受容体シグナルによってラット筋ジストロフィーの筋肉幹細胞による再生が可能になる)」だ。

まず忘れ去られていた論文から紹介しよう。2015年ワシントン大学からDevelopmental Biologyに報告された論文で、

外眼筋と呼ばれる動眼のための筋肉は、ジストロフィンが欠損しても幹細胞の自己再生と筋肉の再生が維持されているという発見だ。すなわち、ジストロフィン欠損でも再生を維持できるメカニズムが外眼筋には備わっているという結果だ。このような驚くべき結果が8年間も忘れられていたというのに驚くが、筋肉幹細胞研究のプロの一人 Frederic Relaix の目にとまった様だ。

ラット筋ジストロフィーモデルで、骨格筋、外眼筋について Single cell RNA sequencing を行い、またその結果を組織学的に検証することで、

  1. ジストロフィンが欠損した骨格筋は、p16 や p21 が高発現し、老化が進み、その結果再生能力が失われている。しかし、この老化は外眼筋では見られず、筋肉再生が維持できる。
  2. 正常ラットで、骨格筋と外眼筋の転写を比較すると、甲状腺刺激ホルモン受容体の発現が後者でのみ見られる。
  3. ジストロフィン欠損外眼筋筋肉幹細胞は、試験管内で増殖を続けることが出来るが、甲状腺刺激ホルモン受容体の機能を阻害する薬剤で、骨格筋と同じように増殖が低下する。すなわち、甲状腺刺激ホルモン受容体シグナルの有無で、外眼筋と骨格筋の差を説明できる。
  4. 阻害剤の効果は、シグナル下流の cAMP を上昇させるフォルスコリンで元に戻せる。

を明らかにした。

以上の結果を、ヒト骨格筋、及び外眼筋で確認した後、最後にジストロフィン欠損マウスにフォルスコリンを週2回注射するプロトコルで、筋肉の喪失を抑えられるか調べ、4ヶ月目で、機能的にも組織的にも、病気の進行をある程度抑えられることを示している。

結果は以上で、フォルスコリンの注射を長期的に続けられるかどうかは難しい問題だが、ジストロフィン喪失の影響を幹細胞の増殖と老化に収束させて、病気の進行を抑えるための標的を明らかにしたことは極めて重要だ。

さらに、幹細胞の一般的な老化についても抑える方法へと発展するかも知れない。さすがプロの目だと感心した。

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