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3月11日  がんネオ抗原に対するT細胞のクローン解析(3月8日 Nature オンライン掲載論文)

2023年3月11日
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昨年11月、「究極のテーラーメイドがん治療」(https://aasj.jp/news/watch/20969)というタイトルで、ガンのネオ抗原に対するT細胞受容体を遺伝子クローニングし、それを正常細胞にCRISPRで導入して、がん治療に用いる治験研究を紹介した。まだまだ画期的な結果には至っていないが、ついにここまでできるようになったのかと印象深かった。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンジェルス校からの論文は、この論文とほぼ同じ方法を、治療ではなくチェックポイント治療での免疫反応の解析に用い、ガンに対する免疫反応を把握するという点では、労を厭わず徹底的に行われた研究で、3月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Neoantigen-targeted CD8 + T cell responses with PD-1 blockade therapy(PD-1阻害治療でのネオ抗原に対するCD8T細胞の反応)」だ。

この研究ではPD-1抗体を中心に、場合によっては他の方法も加えた治療を受けておられる転移性悪性黒色腫11名について、治療効果と、末梢血および腫瘍組織に存在するネオ抗原特異的T細胞の数や動態との関係を調べている。

このような研究はこれまでも行われているが、ネオ抗原特異的T細胞の抗原受容体を再構成し、機能を確かめたクローンを特定して、治療効果と対応させようとしている点が大きく違っている。具体的には各患者さんについて、

  • ガンのエクソーム検査及び、遺伝子発現検査から、ネオ抗原として働いてそうな変異を特定。
  • 変異を含むペプチド部分が、MHCとβマイクルグロブリンと合体した遺伝子を293細胞株に導入、この細胞が分泌するネオ抗原ペプチド/MHC/βミクログロブリンライブラリーを回収。
  • これを蛍光とバーコードで標識して患者さんのガン組織リンパ球や末梢血と反応させる。
  • 反応するT細胞を分離、バーコードから反応するネオ抗原を特定するとともに、抗原受容体を遺伝子クローニング。
  • この抗原受容体を正常細胞の受容体とCRISPRを用いて置き換え、ガンやネオ抗原に対する反応を調べる。

この過程を通して、確かにガンと反応していると考えられるT細胞受容体の、ガン組織や末梢血での出現を調べている。

PD-1治療に反応した3名の患者さんでは、複数のネオ抗原に対する抗原受容体の出現が何度も検出できる。また、一つのネオ抗原に対しても異なる抗原受容体が反応している。

ガン組織で検出できる抗原受容体と、末梢血での抗原受容体とは必ずしも一致しないが、サンプル量が少ないことを考えると、実際には同じと考えてよい。

一方、PD-1治療の効果がなかった患者さんについて調べると、多いとは言えないが、同じようにネオ抗原反応性を確認できる抗原受容体を特定できる。しかし、末梢血や腫瘍組織での出現を調べると、1個か2個の抗原受容体が検出できるだけで、しかも繰り返して検出できない。

以上が結果で、免疫がしっかり成立していないと、チェックポイント治療は期待できないことを改めて示した結果だが、ここまで徹底的な実験で示されると、ガンの免疫をまず成立させ、また成立できたかどうかを確認する方法の重要性が実感できる。しかし、新しい方法の威力は素晴らしい。

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