アナフィラキシーショックは、特定の抗原に対するIgEを表面に持つ全身のマスト細胞に摂取された抗原が結合して、マスト細胞から様々な生物活性分子が全身で遊離されることで、血管が拡張し、透過性が上昇することで、致死的なショック症状が起こると考えられている。そして、命に関わる症状として、血管拡張と透過性上昇による血圧低下、それに体温低下が挙げられている。実際、マウスの実験では、アナフィラキシーは体温低下を指標に診断することが多い。
今日紹介するデユーク大学からの論文は、体温低下が単純に血管拡張や透過性上昇に伴う症状ではなく、感覚神経から体温中枢を介する神経反応であることを示した研究で、3月17日号 Science Immunology に掲載された。タイトルは「A mast cell–thermoregulatory neuron circuit axis regulates hypothermia in anaphylaxis(マスト細胞と体温調節神経回路がアナフィラキシーでの低体温を調節する)」だ。
私もアナフィラキシーでの低体温は血管拡張のせいと単純に考えていたが、このグループは体温が下がるからには必ず体温中枢が関わるはずと考え、興奮神経に特定の遺伝子を発現させるTRAP法と呼ばれる神経操作法を用いて、化合物CLZに反応するチャンネルをアナフィラキシーショックを起こした時に興奮した神経に発現させ、この神経を特異的にCLZで刺激すると体温が低下するかどうかを調べている。
結果は期待通りで、アナフィラキシーを起こさなくても、この神経細胞を刺激するだけで体温低下が起こる。ただ、アナフィラキシー時と比べると低下は強くないので、おそらく血管拡張も体温低下に関わると結論している。
さて、体温低下を調節する神経集団が決まると、あとは末梢から中枢への回路を探索することになる。その結果、
- 高い温度を感じた時に身体を冷やすTRPV1陽性感覚神経を介してシグナルが体温調節中枢へ伝わること。
- 体温調節中枢は褐色脂肪組織に働いて、熱の生成を抑えること。
- TRPV1の直接刺激によっても体温は低下すること。例えば唐辛子成分を投与してもマウスでは体温が下がる。
- ただ、アナフィラキシー時のTRPV1神経刺激は、神経細胞が発現するPAR1受容体に、マスト細胞から遊離したキマーゼ蛋白分解酵素が作用し、活性化することで起こっていること。
などを明らかにしている。
以上の結果は、アナフィラキシーショックの一部の症状は、末梢での血管反応に加えて、中枢性の調節機構も関わることをはっきり示している。個々では体温低下だけが研究されているが、他の中枢性の調節機構も見つかる可能性もある。とすると、将来ノルエピネフリン以外にも、予防的に投与して問題がない薬剤が開発できるかも知れない。
最後に独り言。唐辛子を食べると体温が上がると思っていたが、逆に体温を下げるとは驚いた。