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3月31日 細菌が作る注射器を蛋白質デリバリーに使う(3月29日 Nature オンライン掲載論文)

2023年3月31日
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今回のコロナパンデミックで有名になったmRNAワクチンにも使われている脂肪膜は、核酸だけでなく細胞内への蛋白質デリバリーにも使えそうだが、実際には簡単ではなく、合成コストが低く細胞特異的デリバリーを可能にする方法はまだまだ開発途上と言える。

今日紹介するMITからの論文は、バクテリアが持つPVCと呼ばれる一種のファージの様な蛋白質を注射するシステムを改変して、細胞特異的な蛋白質デリバリーを可能にする技術の開発で3月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Programmable protein delivery with a bacterial contractile injection system(バクテリアの収縮による注射システムを利用したプログラム可能な蛋白質デリバリー)」だ。

全く知らなかったが、バクテリアは他の細胞をアタックするために、16種類の蛋白質と、中に詰め込むトキシン蛋白質が一つになった遺伝子セットを持っており、これが発現すると中に細胞を殺すトキシンが詰まったファージウイルスの様な注射システムが合成され、標的の細胞に結合すると、注射器の様に全体が収縮して内部のトキシンを細胞の中に注射、細胞を殺すことで、邪魔者を排除している。

この細菌由来注射器はそのままで昆虫細胞には取り付けるので、試験管内で昆虫培養細胞に加えると、極めて効率よく細胞を殺すことが出来る。また、中身遺伝子を蛍光蛋白質GFP遺伝子に代えると、GFPだけが注射器内に取り込まれ昆虫細胞に注入されるので、中身を自由に代えることが出来る。

従ってあとは、哺乳動物の細胞に対して反応し、また特定の細胞だけにとりつく様特異性を代えることが出来るか?が重要な開発ポイントになる。

細胞にとりつく部分はPVC13蛋白質が対応しているが、このままでは哺乳動物には取り付けない。そこでこれにリンカーを結合させ、アデノウイルスの一部、あるいはEGF受容体に対する模倣抗体(DARPin)を結合させ、試験管内で調べると、人間の細胞でも、表面に発現している標的分子の発現特異的に、蛋白質を導入できる。

同じようにして、特異性の異なる一本鎖抗体ナノボディー遺伝子をPvc13に結合させると、それぞれの抗体が認識する分子を発現する細胞にだけ、蛍光蛋白質をデリバーできる。すなわち、抗体さえあれば特定の細胞だけを標的にすることができる。

最後に、生体内でも蛋白質を導入できるか、脳内へPVCを注射して調べると、アデノウイルス分子を使った場合、神経細胞特異的に蛋白質を導入することが出来ること、また導入された蛋白質は2−3日で消失するため、極めて短期間だけ細胞を操作できることなどを示している。

以上が結果で、バクテリアでシステム全体を合成できること、細胞特異性を付与しやすいことなどを考えると、かなり有望な蛋白質デリバリーシステムになる気がする。しかし、地球上の生物を探せば、まだまだ面白いツールが掘り起こせることが間違いないことを教えてくれる論文だ。

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