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3月21日 細菌の腸内での適応性を決める相分離(3月21日号 Science 掲載論文)

2023年3月21日
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相分離は分子を液相の中で濃縮できる生命にとっても便利な物理現象で、おそらく生命誕生時にも起こったのではないかと思う。これまで相分離現象は主に真核生物で研究されてきたが、当然細菌でそれが起こっても不思議はない。

今日紹介するイェール大学からの論文は、腸内細菌叢のかなりの部分を占める細菌の一つBacterioides thetaiotaomicron(Bt)の転写調節に関わるRho分子が相分離することで腸内環境への適応性を獲得していることを明らかにした研究で、3月17日号 Science に掲載された。タイトルは「Bacteria require phase separation for fitness in the mammalian gut(哺乳動物の腸内環境へ適応するためにバクテリアは相分離を必要とする)」だ。

バクテリアは、新しい環境で炭水化物摂取量が減ると、リボゾーム合成が低下するので、転写を途中で止めるファクターRhoが働いて余分なmRNAが作られない様にすることが多い。この研究では他の細菌のRhoと比べた時、BtのRhoに相分離を誘導すると想定される規則性のない長いアミノ酸配列が存在することに着目し、この部分を除去したRho(ΔRho)とRhoを様々な条件において相分離を起こすか調べると、Rhoは相分離するのにΔRhoは相分離を起こさないことを発見する。

また、細菌内の相分離体を電子顕微鏡で調べると、正常Btでは見られる相分離体がΔRhoBtでは見られないことから、予想通り不規則配列がバクテリアの中でも相分離に関わっていることを確認している。

次に、BtのRho遺伝子をΔRhoに置き換え無菌動物に移植すると、正常Btと比べて腸内での生存率が低下することを発見している。すなわち、相分離がBtの腸内への適応性を決めていることがわかった。

後は、Rho相分離により適応性が上昇するメカニズムを探り、以下のシナリオを得ている。

Rhoは元々転写の停止に関わるが、炭水化物が低下する様な新しい厳しい環境では相分離を起こして濃縮し安定化することで、通常なら転写停止に関わらない部分のRNAに結合して転写を止めることで、停止効率を大きく高める。この結果、細菌内の遺伝子発現のリプログラムが起こり、例えば自分では合成できないビタミンB12の吸収システムなど、腸内環境適応に必要な様々な遺伝子が優先して合成され、腸内で優位を占める様になった。

以上、バクテリアで相分離が起こること自体には驚きはないが、それを利用して腸内と行った新しい環境適応に使っていることには驚く。また、この遺伝子をうまく使えば、他の細菌の適応性を高めることも出来るかも知れない。面白い研究だと思う。

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