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3月29日 ナノポアセンサー利用の拡大(3月20日 Nature Communications オンライン掲載論文)

2023年3月29日
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ナノポアというと単一DNAの配列決定に利用されるモダリティーと思うほどゲノム研究で普及しているが、原理を考えてみると、穴=ナノポアが塞がれた時の電気信号の差を記録していくという意味では、様々な用途に利用できる。実際、アミノ酸配列を読もうとする研究も進んでいることを以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18292)。いずれの場合も、ナノポアをペプチドやDNAが順番に通っていくドライバーを利用する系だが、穴を塞ぐという点だけに注目すれば用途は広がる。

今日紹介するニューヨークのシラキューズ大学からの論文は、ナノポアを特定のタンパク質のセンサーとして使うための条件を調べた研究で、3月20日 Nature Communications にオンライン掲載された。タイトルは「A generalizable nanopore sensor for highly specific protein detection at single-molecule precision(単一分子レベルで特定のタンパク質を検出する汎用可能なナノポアセンサー)」だ。

このグループは大腸菌の ferric hydroxamate uptake component A(FhuA) と呼ばれる分子をナノポアとしてタンパク質との相互作用を調べ、これをナノポアとしてタンパク質全体をキャプチャーするセンサーとして使えるのではと考えた。ナノポアは脂質膜の中に埋め込み、脂質絶縁体の中での伝導性を持つ穴を形成させ、穴が塞がれたときに起こる伝導性の変化を調べるのだが、ナノポア自体は FhuAも溶液の中から特定のタンパク質に結合する能力はない。したがって、FhuAにタンパク質と特異的に結合して補足し、ナノポアと反応させるための分子を融合させる必要がある。

この研究ではSUMO、 WDR5、そしてEGFRの3種類のタンパク質を同じナノポアで検出しているが、それぞれのタンパク質を細くするため、一本鎖抗体(ナノボディー)や、たんぱく質と結合する分子を補足のために FhuAと結合させ使っている。

この条件でナノポアにたんぱく質溶液を加えると、溶液中のタンパク質がナノポアとついたり離れたりし、結合したとき穴が塞がれ電流が定常の40pAから、塞がれ方に応じて0pAまで低下することがわかる。また、このように設計したセンサーは、溶液中のタンパク質と結合解離を繰り返すので、濃度に応じてナノポアを防ぐ頻度、時間が変化する。実際のデータを見るのが最もわかりやすいが、ナノポアセンサーだけで目的のタンパク質を感度よく検出できる。

3種類のタンパク質を例に具体的実験結果を述べると、SUMO分子やEGFR分子では穴が完全に塞がれ、電流は完全に遮断されるが、WDR5では完全に塞がれないため、40pAが30pAに低下する。

一方、遮断される時間はSUMOやWDR5では一定で、同じように分子がナノポアと反応しているのがわかるが、EGFRでは、時間の長い反応と、短い反応に分かれ、構造的に2種類の反応様式をとることがわかる。

最後に、他のタンパク質として牛血清アルブミン溶液に、SUMO分子を加えたときにも検出可能かどうかを調べ、ノイズは増えるが、ナノポアの伝導性の変化は十分検出可能であることを示している。

以上が結果で、抗体を用いて化学的に検出するELISAや、物理的変化を利用してタンパク質の結合を検出する plasmon resonance法やisothermal calorimetry に代わるかどうか予測するほど知識はないが、DNA配列決定現場でのナノポアの活躍を見ると、将来性はあるように感じる。なんといっても、一分子レベルで、パラレルに検出が可能だし、将来はウイルス全体といったさらに大きな分子複合体の検出も可能になるかもしれないと期待している。

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