5月15日 線維芽細胞を土台として使ったガン免疫活性化キメラ抗体治験(5月10日号 Science Translational Medicine オンライン掲載論文)
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5月15日 線維芽細胞を土台として使ったガン免疫活性化キメラ抗体治験(5月10日号 Science Translational Medicine オンライン掲載論文)

2023年5月15日
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PD1やCTLA4等に対する抗体を用いた現行の免疫チェックポイント治療が効かないガンや患者さんにも使える免疫活性化戦略として、現在T細胞活性化に関わる様々な共シグナル分子を刺激する抗体や分子の開発が進められている。CD27やOx40はその代表的な分子で、臨床治験結果を待つ段階で、そのうちいくつかは認可される確率が高いと思っている。

この中で少し変わったのがCD137分子で、TNF受容体ファミリー分子で、T細胞だけでなく、B、NK、樹状細胞を刺激できることが知られている。また、他のTNF受容体と同じで、受容体が抗体で3量体を形成すると刺激が入る。他の共シグナルと比べても刺激が強いので、分子活性化抗体の開発が進められたが、抗体のFc部分を介する肝臓毒性が発揮され、毒性を除去した抗体が開発され、2ラウンド目の治験が始まっている。

いくつかの大手製薬企業がCD137に対する薬剤開発を進めているが、今日紹介するスペイン ナバラ大学からの論文は、ロッシュ社の開発した片方が線維芽細胞が発現しているFAPと、もう片方がCD137と結合しFc部分を持たないというかなり凝ったキメラ抗体を用いた治験で、5月10日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A first-in-human study of the fibroblast activation protein–targeted, 4-1BB agonist RO7122290 in patients with advanced solid tumors(FAPと4-1BB(CD137のこと)に結合するアゴニストキメラ抗体の進行固形ガンへの効果)」だ。

CD137を活性化するためには、膜上で3量体を形成させる必要がある。一方、通常の抗体を用いる場合、活性化出来る濃度の幅が限られる。そこで、片方を線維芽細胞上のFAPに結合させることで、活性化出来る濃度の幅を拡げることが出来る。

一方、懸念材料としてはFAPを発現した細胞が活性化されたT細胞に傷害される心配がある。ただこれまでの前臨床で問題はないと判断し、今回の治験に進んでいる。

研究は末期の患者さんに半分は単独、もう半分はPD-L1に対する抗体との併用で、安全性、血中サイトカイン、腫瘍内T細胞数、などとともに、効果を調べる第1相治験になる。

まず、共シグナルを活性化しているので、ほとんどの患者さんで、この薬剤が原因となるサイトカインストームをはじめとする様々な副作用が出現する。多くは一過性でコントロールできるが、重症の肺炎、肝障害、そしてサイトカインストームがあわせて12%に見られるが、予想の範囲としている。

効果だが、単独投与の場合、効果を示す患者さんは2割にとどまるが、PD-L1抗体によるチェックポイント治療との併用では4割以上の患者さんが反応し、50人の内2人は完全にガンが消失している。

効果を問わず、キメラ抗体投与で末梢血のCD8、CD4T細胞はともに活性化されている。また、バイオプシーで調べたガン組織で、キメラ抗体等予後組織内のCD8T細胞の増加を認めている。

活性化される遺伝子などデータの詳細は省いたが、チェックポイント治療との併用という範囲で、副作用は強いが、期待が持てる結果という結論になる。現在進んでいる共シグナル標的抗体治療の中で、かなり凝った抗体治療だが、今のところ順調と言っていいように感じる。

カテゴリ:論文ウォッチ