5月19日 アフリカ民族の形成を現在のゲノムから推定する(5月17日 Nature オンライン掲載論文)
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5月19日 アフリカ民族の形成を現在のゲノムから推定する(5月17日 Nature オンライン掲載論文)

2023年5月19日
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人類の起源であるアフリカ大陸では、現存の民族が極めて多様で、その形成過程は多くの研究者を惹きつけてきた。ただ、気候条件のためか、化石が少なく、結果古代ゲノムの解析がほとんど出来ていない。自ずと、現存の民族をできるだけ詳しく調べてそこから系統モデルを作る作業が中心になる。

この作業は簡単でなく、検証するために作成するモデルに強く依存することになる。今年3月に紹介したペンシルバニア大学からの論文では、共通祖先が順番に枝分かれするモデルから始めると、南、東西各民族に分離後も、追跡しきれない複雑な交雑史を想定せざるを得ない結果が示されていた(https://aasj.jp/news/watch/21660)。

今日紹介するカリフォルニア大学デービス校、カナダ マクギル大学との共同論文は、従来の共通祖先枝分かれモデルをやめて、初期人類レベルで活発な交流を想定した新しいモデルがアフリカ民族の交流史をより正確に反映することを示した研究で、5月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A weakly structured stem for human origins in Africa(アフリカにおける人間起源に関する弱い構造化起源モデル)」だ。

この研究では、290人のアフリカ各地からの全ゲノムを解読している。3月に紹介した論文と比べると、ゲノムの数や読んだ密度では劣るが、代わりに様々なモデルを立てて、徹底的にその妥当性を検証する方法をとっている。特に重要なのは、ヨーロッパからも多くの交雑が行われ、民族ゲノムを複雑にしている1万年以降に影響されない、10万年以前の交雑についてのモデルを作成し、そこを起点に南アフリカ、東アフリカ、西アフリカの3民族分化を調べた点だ。

この結果最終的にたどり着いたのが、人類2起源と初期合流(merge)モデルで、この結果だけを解説すると次のようになる。

まず驚くのは、ネアンデルタールと人類が分かれる前、100万年ぐらい前にアフリカで人類は2つの系統にまず分かれている。この中のStem1から40万年前にネアンデルタール人と現生人類の一部が分かれる。この時、Stem1とStem2は一定の交雑を行う。

その後、Stem1がネアンデルタール人と分かれた後、人口減少を来し、このボトルネックから回復した後アフリカ3民族の祖先の形成が始まるが、20万年から10万年にかけて、独立に発展していたStem2 との合流が起こり、合流で生まれた2系統が、南アフリカ系統と、東西アフリカ系統へと分離する。

その後、1万年までほとんど各民族は交雑せず独立して進化するが、西アフリカ民族はもう一度Stem2と合流する。これによりStem2は西アフリカに統合され、Stem2としては絶滅する。

1万年以降は、気候変動などの要因により、それぞれの民族は交雑するが、1000年以降は圧倒的に東西アフリカ民族から南アフリカへの移動と征服による交雑で、その結果本来の南アフリカ民族は極端に減少している。

以上が結論で、ネアンデルタールと同じように、絶滅したか、現生人類に吸収されたStem2が存在していたこと、そして初期にこのStem2を取り込んだ新しい共通起源を形成したというのが新しい考えになる。これが本当かどうか、やはり化石の発見が待たれる。

カテゴリ:論文ウォッチ