一般の人はセラミドというと皮膚の保湿といった良いイメージが多いと思うが、代謝について少しでも勉強すると、セラミドは危険な脂質というイメージを持つ様になると思う。実際、セラミドがインシュリン抵抗性、脂質異常、そして真血管障害に関わることは臨床的にもよく知られている。
今日紹介するスイス・ローザンヌにある工科大学からの論文は、セラミドが筋肉のタンパク質の貯留を促進し、ミトコンドリアのエネルギー代謝異常を誘導することで、老化によるサルコペニアの原因になっていることを示した研究で、5月17日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Inhibiting de novo ceramide synthesis restores mitochondrial and protein homeostasis in muscle aging(新たなセラミド合成を抑えることで筋肉でのミトコンドリアとタンパク質の恒常性を回復できる)」だ。
老化が進むと、筋肉ではタンパク質の沈殿が見られる様になり、それに伴いミトコンドリアの酸化的リン酸化が抑制される。この研究では、最初からこの変化を誘導する原因が、筋肉内にセラミドが蓄積するからではないかと考えた。
老化を含むさまざまな筋肉障害の筋肉での遺伝子発現を調べると、全てでセラミド合成経路に関わる分子が上昇していることをまず確認している。そして、この上昇は筋肉内のタンパク質の貯留と、ミトコンドリアの酸素消費が低下することを明らかにしている。
次に、この相関に因果性があるか調べる目的で、セラミド合成経路を阻害すると、ミトコンドリアの酸素消費量やタンパク質停留が正常化する。
次に筋肉老化を止めることができるか、モデル動物として線虫にセラミド合成阻害剤を添加すると、さまざまな代謝が改善し、筋肉の老化を止めるだけでなく、寿命も少し伸ばすことができる。
そこで、老化マウスを用いてセラミド合成阻害剤投与、あるいは筋肉得意的に合成酵素をノックダウンすると、老化に伴う酸化的リン酸化の低下が正常化し、またタンパク質の凝集も抑えることができる。これは、セラミド合成を阻害することで、さまざまなシャペロンの合成が上昇し、タンパク質の折りたたみが正常に進むためで、ほとんどのシャペロンの合成は上昇する。
最後に、実際の臨床に使えそうなセラミド合成阻害化合物を探索し、3種類のリード化合物を特定して研究を終わっている。
以上が結果で、要するに老化によりセラミド合成が上昇することが、サルコペニアの最も重要な原因であることを示した点は重要だ。セラミド合成阻害剤を長期的に内服していいのかどうか、臨床的にはわからないが、サルコペニアが防げるとすると、私たち高齢者には朗報だ。