膵臓ガンの間質は複雑で様々な細胞が存在する。その結果、血管も圧迫され酸素だけでなく様々な栄養分が低下する環境に存在している。にもかかわらず、膵臓ガンは周りを押しのけて増殖し転移する恐ろしさを持っており、ガンの中でも最も治療困難なガンになっている。
この栄養不足を補うため、膵臓ガンはオートファジーで自らの栄養調達を再構成し、また環境からの栄養分を効率よく利用できるしたたかなシステムを備えている。
今日紹介するミシガン大学とロンドン ガン研究所からの共同論文は、膵臓ガンがブドウ糖の代わりに核酸の一つウリジンを分解して糖を調達する能力を持っており、これが膵臓ガンのしたたかさの一因であることを明らかにした研究で、5月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Uridine-derived ribose fuels glucose-restricted pancreatic cancer(ウリジン由来リボースがブドウ糖欠乏の膵臓ガンの燃料となる)」だ。
このグループは膵臓ガンを代謝の面から研究しており、その一環としてブドウ糖やグルタミン含量を減らした培養条件で様々な膵臓ガンを培養、この条件で増殖するために起こる代謝変化を調べている。その結果、アデノシンや様々な糖を利用してこの悪条件を乗り越えることがわかったが、その中のウリジンもブドウ糖欠乏を補う活性があることに注目し、研究を進めている。
ウリジンがブドウ糖の代わりをすることを、様々な代謝実験で明らかにした後、その経路を探索し、ウリジンがUPP1酵素によりリボース1リン酸とウラシルに分解され、このリボース1リン酸からグリセラルデヒドを経てピルビン酸を合成、これをミトコンドリアのTCAサイクルに供給することを明らかにしている。
すなわち、膵臓ガンでのUPP1の発現上昇が膵臓ガンのブドウ糖抵抗性の原因の一つであることが明らかになったが、次にこの上昇を誘導するシグナルを検討し、膵臓ガン共通のガンドライバー、変異Ras及びその下流のMAPK分子経路がUPP1発現調節に関わることを明らかにしている。
次に、膵臓ガンにウリジンを供給するガン組織の細胞を探索し、なんとマクロファージが唯一のウリジンサプライヤーとして関わることを発見している。
最後に、UPP1がガンの悪性化に関わることを調べるため、UPP1発現の高い膵臓ガンと低い膵臓ガンに分けて、データベースを調べ直すと、低いグループの方が予後が良いことを確認している。
そして、マウス膵臓ガン細胞株からUPP1をノックアウトし、マウス膵臓に移植する実験を行い、UPP1がノックアウトされるとガン細胞の増殖が強く抑えられることを明らかにしている。
他にも詳細な代謝実験を行い、これらの結果が全てUPP1によるウリジンを糖として利用する経路に依存することを示しているが、詳細は省く。
以上、rasが関わるとすると、膵臓ガン特異的ではないと思うが、間質でのウリジン利用の可能性からおそらく膵臓ガンで特にこの経路が問題になるのだろう。いずれにせよ、ガンのしたたかさは、同時に弱みでもあるので、UPP1を抑えることは治療に利用できると期待する。